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2019-04

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いさお駄作劇場(1)恋と魔法とメリケンサック

せっかくブログなど作った訳ですから、小生が過去に書いた小説を乗っけてみようかと思います。
今にして読み直してみると、どれも酷い出来ですが、ヒマでヒマでしょうがない時にでも、読んで頂ければ幸いです。

では、記念すべき第一弾は、小生が色々と道を踏み外すきっかけとなった問題作
恋と魔法とメリケンサックです。
見ての通り、コメディです。
本ッ当に酷い話ですが、個人的にもの凄く思い入れのある作品ですので、いくばくかでも笑ってもらえると嬉しいです。

「ぱんぱかぱーん! おめでとう、ヒカルちゃん! あなたは今日から魔法少女よぉ!」
 いきなり部屋の窓をすぱぁん! と力一杯開け放って、彼女はそう言った。
 腰まで届きそうな黒髪を風に遊ばせた、綺麗な女性。えっちぃグラビア雑誌の表紙の様な、妖艶な笑みを浮かべている。身につけているのは……えぇと、えすえむの女王様が着ている様な、ハイレグでベルトとか金具とかトゲトゲなんかがいっぱい付いてる黒い革製の、なんて言うの? ボンテージファッション? みたいな。頭にはナチスの人が被ってそうな帽子をあみだに被り、首にはでっかい銀色のドクロをあしらったチョーカーが妖しく輝いている。
 要約すると「変態」と言い切れる格好だった。
「……んーと、ごめんなさい。まにあってます」
 とりあえず開け放たれた窓を閉めて、しっかりと施錠して、ついでにブラインドなんかも降ろしてみる。ちなみに私の家はマンションの五階。なんか、人はあまりにも想定外な事が起きると、かえって冷静になるらしい。
「ふう、いまの変態は一体……」
「あらあら冷たいコねぇ。おねえさん悲しいわぁ」
 振り向くとそこには「さも当然」といった表情で、さっきの危険な香り漂うおねえさんが!
「うひゃあ!」
 驚いて後ずさった拍子にタンスの角に肘を思いっ切りぶつけて。
「くぅうっ!」
 電撃の走った肘を抑えてうずくまった所に運悪くカラーボックスのカドが。
「きゃん!」
 したたかに額を強打してひっくり返りそうになって、咄嗟に本棚にしがみついたら本棚ごと倒れて。
「はぅあぁぁぁ!」
 ごめんなさい、私嘘つきました。やっぱり想定外な事が起きると、人は取り乱します。そりゃもう見苦しいくらいに。
「んふふ、何てコントチックなリアクション。かぁわいいわぁ」
 本棚と大量の本(主に少女マンガ)の下敷きになっている私を、何故かおねえさんは嬉しそうに見下ろしていた。


「突然だけどヒカルちゃん、あなたの事を少し調べさせてもらったわ」
「は、はぁ」
 私の勉強机の椅子に腰掛けて、そう彼女は言った。スカートを履いていたら間違い無くパンツ丸見えな角度でわざとらしく足を組み換えて、顔にかかった前髪を気だるそうに掻き上げる。その無駄にフェロモンチックな仕草は、まるでエロゲーに出てくる淫乱女教師の様に凶悪な程のエロエロフレイバーを醸し出していた。そんな彼女を、私はなし崩し的に床に正座して、まるでお説教でも受けている様な格好で見上げている。なんなんだ? このシチュエーション。
「あのー、えーと、これは?」
 状況を理解できないでいる私の事などお構い無しに、おねえさんは懐から取り出した謎のプリントを読み上げた。
「三田村ヒカル。四月四日生まれの十四歳中学二年生、血液型はO型、牡羊座。好きな科目は英語と家庭科、嫌いな科目は体育。んふふ、かわいいわねぇ」
「……ストーカー?」
「んもぉ、そんな引いた目をしちゃダ、メ、だ、ゾ」
 嫌悪感五十%増量の視線を送ってみるも効果無し。さすが変態。
「好きな食べ物はチーズケーキ、嫌いな食べ物は特に無し、あら偉いわねぇ。最近妙に太くなって来た二の腕が目下悩みのタネ。でも、一番の悩みはなんと言っても」
「わー! わー!! やめてやめてやめて聞きたくない理解したくない納得したくない!」
 そう、理解も納得もしたくない。誰にもどうにも出来ない、神様を呪う事しか出来ない、私の悩み。それは……
「んふふ、そんなあなたを神様は見捨てなかったのねぇ。ヒカルちゃん、あなたの悩みは魔法少女になれば、すべて解決するわよぉ?」
 妖しい笑みを浮かべて、おねえさんがそう言った。まるで私の心を読み取ったかの様に。
「な!?」
 私は、信じがたい彼女の言葉に、一瞬でフリーズする。
「すべて……解決……する、の?」
 そんな、そんな事が? 一体、どうして? どうやって!?
 硬直している私の頬に、おねえさんが愛撫する様にやさしく手を添える。私はそのままゆっくりと彼女の胸元に抱き寄せられた。
(うぁ……)
 想像以上にやわらかい彼女のダイナマイトなおぱーいに顔を埋められて、不覚にもどぎまぎしてしまう。
「そうよ、ヒカルちゃん。あなたは魔法少女になれるの。ま、ほ、う、しょ、う、じょ。あなたにはこの言葉の意味、わかるでしょ?」
 耳元で、おねえさんが囁く。
 私が、魔法少女に? まほうしょうじょ……まほう……しょうじょ……
「!? まさか!」
「んふふ、そう。その『まさか』よ。どうする? ヒカルちゃん。魔法少女、やってみない?」
「やります! 超やります!」
 彼女の問い掛けに、私は一切の躊躇無く答えた。
 この想いを遂げる事が出来るのなら、何でもやってみせる。魔法少女であろうと、何であろうと!
 そんな事を瞬間的に考えていた。
 ……その後、どんな目に遭うのか、深く考えもせずに。
「でも、どうして私なんですか?」
「あなたには、それだけの資質があるの」
 おねえさんの態度と口調が一変してシリアスに。うわ、この人こんな顔できるんだ。
「……私の事、調べたんだよね? 分かってて言ってるんだよね?」
「もちろん。あなたの事を色々調べたその上で、適任だと思ったからこうやって話をしているの」
「でも……」
「いい? 魔法少女に一番必要なのは『恋する心』よ! ヒカルちゃん、あなたは今、恋をしているわね? 幼馴染みの裕也君に」
 シリアスになった途端、真顔で恥ずかしい事を聞いて来る。
「え? ええと、まあ、恋っていうか」
「そうね、片思い。それもこのままでは絶対に叶う事の無い、ちょ~絶望的な片思い。ああ、なんて不憫なコ」
 と思いきや、今度は憐憫に満ちた瞳で私の顔を見つめ、さめざめと涙まで流しはじめた。
「さっき会ったばっかりだけど、おねえさんの事殴っていいかなぁ?」
「ううん、聞いて?」
 こいつ人の話聞いちゃいねぇ。
 さりげなく涙を拭いておねえさんは話を続ける。なんて言うか、泣きたいのは私の方です。
「そんなあなたの、絶望的な、悲しい位無駄にダダ漏れしている恋心が、ちょうど後継者を探してあてども無く町を徘徊していた私の『ラブパワー探知機』にみゅんみゅん響いてきたの! そりゃもう、すっごい数値よ! 具体的に言うと歴代四位タイぐらい!」
 ……って事は、ええと、つまりはアレですか。
「つまり、私は絶望的な恋をしているから選ばれたの?」
「まあ有り体に言うと、そういう事になるわねぇ」
 そんな、報われない恋をしているだけでなれる魔法少女って、一体……しかも歴代四位タイって……
「もう少し詳しく説明するとぉ、魔法少女の力の源は『純粋な心の力』なの。それは信仰心でも良いし、場合によっては純粋な悪意でも成り立つわ。でも、その中でも一番ピュアで力強いのが、あなた達くらいのコの場合は『恋心』という事になるわねぇ」
「はあ、そういうモンなんですか」
「思い出してご覧なさい。今までテレビで放映されてた魔女っ子アニメを。ほぼ例外無く、主人公にはちょっと気になる男の子がいたでしょう?」
「た、たしかに」
「ついでに言っちゃうとぉ、ほとんどの魔女っ子は最終回で憧れの相手とハッピーエンドで終わってるわよぉ」
「!!」
「どぉ? やる気出た?」
 にんまりと笑って、おねえさんは私の顔を覗きこむ。
 出ました。ええ、出ましたとも。
「じゃ、気が変らない内にちゃっちゃと変身しちゃいましょうか」
「え!? いきなり?」
 しかも、『気が変らない内に』って。
「あの、いきなり変身は、その、まだ早いかと」
「あらあら、そんな悠長な事言ってる間に裕也君が誰かに取られちゃったら」
「します! 変身します今すぐに!」
 踊らされてる。私、絶対に踊らされている。

「はい、これが変身用アイテムよ。早速着けてみて」
 おねえさんが私に手渡したそれは、奇妙な形をした鉄塊だった。
 長さ十センチ、幅三センチ位のブ厚い鉄片。表には赤黒い染みが着いた禍々しい鋭角の鋲が並び、裏には等間隔に並んだ輪っかが四つ。サイズ的にちょうど人差し指から小指が収まる大きさである。
「……これは、一体?」
「メリケンサックよ。見た事無い?」
 無い。ぜんぜん無い。フツーの中学生なら、いや、中学生じゃなくても普通に生活している人だったら恐らく一生手にする事の無いであろう、都市伝説にも似た幻のアイテム。なんていうか、確かにある意味ファンタジー。
 でも……
「あのー、普通、魔法少女ってステッキとかコンパクトとか、もうちょっと可愛いアイテム使うんじゃあ」
「はっ! やっぱり所詮はお子様ね。どうしようもない甘ちゃんだわ!」
 急に今までとは一変した吐き捨てる様な口調で、まるでゴミでも見る様な目で私を睨む。
 そんなおかしな事言った? 私。
「いい? 戦いってのはそんな甘いもんじゃ無いの。かわいらしいステッキか何かから得体の知れない光線みたいなものがきらりらりーんって出て、当たった敵が流血も骨折も内臓破裂もしないで『ぐはぁーっ』なんつって倒れてくれるのはアニメの中だけよ? 必要なのは力! 純然たる破壊力なの!」
 いや、たしかにそうかもしれないんだけど、でも、これはあまりにもアレじゃあないかと。
「えと、だからって、よりによってメリケンサックって」
「黙れ、クソガキが。ガタガタ抜かすとぶっ殺すぞ」
「ひっ!?」
 なんかヤバいスイッチが入ってしまったのだろうか、急にドスの効いた声で私の両肩をがっしと掴むおねえさん。燃える様に真っ赤に輝いている、なんか殺人光線とか発射しそうな凶悪視線で睨みつけられる。
 すげー怖いんですけど。
「あたいはコレで今まで戦って来たんだよ! 魔法少女として! 誰が何と言おうと! この二つの拳で戦って来たんだよ! ああ? 判るか!?」
 そのまますごい力でがっくんがっくん揺さ振られる。
「ああっごめんなさいっ! なんかしらんけど、とりあえずごめんなさいっ!」
「……はっ?」
 おねえさんが急に、我に変えったかの様に動きを止めた。瞳のヤバい輝きも治まっている。
「あら、ごめんなさい。私ったら、またダークサイドに引きずり込まれちゃって。もう、やぁねぇ」
「あの、だーくさいどって?」 
「んふふっ。何でも無いのよ、発作みたいなモノだから」
 ダークサイドに引きずり込まれる発作って何?
 色々突っ込み所満載だけど、またさっきみたいにキレられたら怖いし……
「じゃ、早速変身してみましょっか?」
 何事も無かったような笑顔で、おねえさんは私にメリケンサックを手渡す。
「あ、はい」
 反射的に受け取ってしまった私。
 何だか、取り返しのつかない事をしてしまった様な気がするのは、気のせいだろうか。
「メリケンサックを手に装着して、こお、ラオウ昇天のシーンみたいにかまえて。一片の悔いなし~、みたいな感じで」
「こぉ?」
「そして変身の呪文をとなえるの。『テリプルフィジカルデスメタル~!』はいっ!」
「……ぃゃ」
「はいっ!」
 うわ。またしても、さっきの凶悪目線。
 ああっもお! やります、やりますよ、やればいいんでしょ!
「て、てりぷるふぃじかるですめたる~!」
 ぺかーーーーっ!
 あまりにもアレな呪文を唱えた瞬間、私の体がまばゆい光に包まれた。
(おおっ! これは!)
 まるで魔女っ子アニメの変身シーンみたいに周囲が極彩色の不思議空間になって、輝く私の体がくるくる回りながら、わざとらしいサービスショットっぽい全裸のシルエットになって!
そんで、こお、全身にぱぁ~っとぽわぽわでひらひらでふりふりの可愛らしい魔女っ子衣装をポップに装着!
 ……て。
「なんじゃこりゃ~!」
 変身した私が身につけていたのは……えぇと、えすえむの女王様が着ている様な、ハイレグでベルトとか金具とかトゲトゲなんかがいっぱい付いてる黒い革製のボンテージファッションで、頭にはナチスの人がかぶってそうな帽子、首にはでっかい銀色のドクロをあしらったチョーカー。つまり、まるっきりおねえさんと一緒の変態ルックだった。
「おめでとう! 今日からあなたが『暗黒魔法少女テリプルドミナ』よ!」
 あ、暗黒? 今、暗黒って言った?
「あの、暗黒魔法少女……って?」
「ああん! もぉ! 何て可愛いの? ステキよぉ~。剥製にして居間に飾りたいくらいステキよぉ~」
「だから! 暗黒って!?」
「あら? 言ってなかったかしら? 私は暗黒神様に仕える巫女で、『暗黒魔法少女テリプルドミナ』は暗黒魔法の力で戦う、熱血武闘派魔法少女なの。強いわよ~。超強いわよ~。ちょっちダークサイドに引きずり込まれちゃったりするけど」
「そんな、あの、そんな」
 最初に気付くべきだった。
 本来ならこんな、どれだけ好意的に見ても『変質者』としか形容出来ない危険なおねえさんが「あなたは今日から魔法少女よ!」なんて言ってきた時点で、まともじゃないと考えなきゃいけなかったんだ。
 これじゃあまるで「芸能人にしてあげる」なんて言われて、ほいほい付いて行ったらえっちいビデオに出演させられちゃったバカな女と大差無いじゃないか。
 なんで私こんな事しちゃったんだろ?
 ……でも。
 ……それにしても。
「巫女って! その格好で巫女って! それに巫女ってたしか処女じゃないと駄目なんじゃあ!?」
「あらぁ、そこがツッコミ所なのぉ? 処女だけにツッコミ所なんて、ふふ、このお、ま、せ、さん。私はねぇ、暗黒神様にこの身の全てを捧げちゃってるの、んふふ。それにこのカッコはねぇ、暗黒神様に仕える巫女の正装なの。素敵でしょ? あなたもすっごく似合うわよぉ」
「あう」
 そうでした。今の私はこの変態を笑うことなど出来ないのです。
 て言う事は、待てよ? ひょっとしたら私も……
「ヒカルちゃんも、今日から巫女として暗黒神様のために精一杯戦ってね」
 ……ああ、やっぱり。
 お母さん、ごめんなさい。私、汚れちゃった。
 
 ぶぃぃぃぃぃん!
「ひっ!」
 言い様の無い絶望感に浸っていたその時、チョーカーにぶら下がっているドクロの眼がチカチカと赤く光って、あたかもマナーモードの携帯の様に小刻みに振動した。
 見てみると、おねえさんのチョーカーも同じ様に、輝きつつ振動している。
「おねえさん、これは!?」
「あ、暗黒神様から早速出動命令よ。んんっ、町に怪人が出たみたい……あん、素敵ぃ」
 チョーカーの振動に何やらヤられちゃってるらしいおねえさんは、体をびくんびくんさせながら恍惚の表情で答える。
「そんな!」
「……ふぅ。さ、行くわよ!」
 妙にスッキリした表情でおねえさんは私の手をがっしと掴む。切り替え早!
「ま、まさか、いきなり戦えとか、いわな……い……よね?」
 おねえさんは屈託の無い笑顔で私の目を見て、言った。
「さっき言ったでしょ? 『今日からあなたが暗黒魔法少女テリプルドミナよ!』て。さあ、怪人をぶちのめしにいきましょう」
「や、あの、私そーゆーのやった事無いっていうか、これからもやる気無いっていうか」
「バトルシーンの無い魔女っ子モノなんてフンコロガシ程の価値も無いでしょう!? さぁ行くわよぉ!」
「そんな、せめてカナブンくらいには……きゃあああああああああ!」
 おねえさんは私の体を小脇に抱えて、マンション五階に位置する私の部屋の窓から何の躊躇も無く飛び降りた。

「さて。暗黒神様からの指令だと、たしかこの辺に……あらぁ? ヒカルちゃん、どうしたの? そんなこの世の終わりみたいな顔しちゃって」
「終わりです。ええもう終わりましたとも。グッバイ、マイ人生」
 マンションの五階から落とされて、こんな格好で街中を散々走らされて、挙句の果てに道行く親子から『ママー、あのおねえちゃんたち、へんなカッコー』『見るんじゃありません!』とか言われちゃった日にゃあ、普通、世を儚んで全てを終わらせたくなります。
「大丈夫よ。心の痛みは最初の内だけで、だんだん気持ち良くなってくるから。もぉ超快感♪」
「いやぁ! そんな快感知りたく無い!」
「静かに! あそこにいるわ」
「え?」 
 敵の怪人が視界に入った。
「うわぁ……」
 この人を怪人、なんて陳腐な言葉で一括りにしちゃって良いのだろうか?
 それは、有り得ない位に豪快なウェーブの掛かった長い金髪をたなびかせた、必要以上にグラマラスな女性だった。シンクロナイズドスイミングの選手も真っ青なケバい化粧を施した上に、目にはアゲハ蝶をあしらった極彩色の仮面を着けている。そのダイナミックボンバーなバディを誇示する様に白衣を肩から羽織り、そしてその下には、もはや『ヒモ』としか形容出来ない位の激ヤバビキニがマニアックなプレイの様な趣きで体を締め付けている。
 さらに、左おぱーいの上に薔薇、右腿の内股には蘭のタトゥー。陽光にギラリと輝く巨大なダイヤのへそピー、そして足元は武器になり得る鋭さの真っ赤な細い、高いピンヒール。
 怪人って言うよりむしろ変人。って言うか変態。どこに出しても恥ずかしい、完璧な変態だった。
 敵も味方もこんなのしかいないのか……
「あれは『死ぬ死ぬ団』の女幹部、マドモアゼル・パピヨン!」
「はあ。そぉっすか」
『死ね』じゃなくて『死ぬ』なんだ。一体どんな団体なんだろう?
「イケメン狩りに来たんだわ!」
「イケメン狩り?」
「そう。奴はイケメンの、主に中学生位のかわいいコをさらっては散々嬲って楽しんだ挙句、飽きたらポイして戦闘員に改造してしまうという、とんでもない女よ。ああ、なんて羨ましい!」
 あなた、うっかり本音がこぼれてますよ。
「……で、アレを倒して来い、と?」
「ええ、やっちゃって。あの変態バカ女の頭を熟れたザクロみたいに、こう、ぐしゃっと!」
 いかにもな姿形の戦闘員達に何やら偉そうに指示を出している向こうの変態を指差して、こっちの変態が言い放った。
「ううっ。やだなぁ」
 ぶっちゃけ、やる気ゼロ。
 こんな格好させられて、町中に恥をさらされた上にあんな連中と戦えなんて、普通に有り得ない。

 何とかしてここから逃げる手立ては無いもんだろうか?

 かなり真剣にそんな事を考えていたその時、信じ難い光景を目撃してしまった。
 戦闘員に捕まっている数人のイケメンボーイの中に、一人だけ威勢良く抵抗している子がいた。
「放せ! この野郎!」とか叫びながら、男の子らしい実直さで戦闘員に殴りかかっている。あ、簡単に倒された。しかも倒れこんだ所にマウントポジションまで取られてさらにボコボコにされてる。ダメだよ、ちゃんと関節取りにいかなきゃ……って、もしかして、あの子……
「あれは……裕也!」
「あらぁ、なんてお約束な展開。ヒカルちゃん、早く助けにいかなきゃダメじゃない」
 隣でおねえさんがまるで人事の様に話しかけてくる。うわぁ、めっさ殴りたい。
 しかし、今は裕也を助ける方が先だ!
 意を決して、私は敵に向かって叫んだ。
「待ちなさい!」
「なんだと……お、お前はテリプルドミナ!?」
 私の姿を見て狼狽する変態(敵の方)
 ていうかあきらかにビビってる。
 戦闘員達は『イー!』だの『ヒー!』だの叫びながら身構えているけど、良く見るとガタガタと震えていた。
「あれ? なんだか、私、恐れられて……る?」
「そうよぉ、あいつらビビりまくりよぉ。なんと言ってもテリプルドミナは悪の組織聯合の『相手にしたくない魔女っ子ランキング』で五年連続ぶっちぎりナンバーワンなんだもの! んふっ、おねえさん、頑張ったんだから」
 五年間暴れ回ってその地位を築いたと思われるおねえさんが、嬉しそうに話す。
 なんだかものすごく複雑だけど、相手が私の事を恐れているのなら、それはそれで都合が良い。ちょっと脅かせばビビって逃げ出すんじゃあ無かろうか。
 そう考えた私は、この際思いっきり高圧的な態度に出る事にした。
「そこまでよ、悪党ども! そのイケメンボーイズを解放して大人しく帰りなさい! さもないと、今日の昼食が自分の歯で食べた最後の食事になるわよ!」
 なに言ってんだろ、私。
「イ、イーーーッ?!」
 しかし、そんな私の恫喝もそれなりに効果があるらしく、戦闘員達は今にも逃げ出さんばかりに見苦しくうろたえていた。
(ふぅ。なんとか戦わずに済んだか)
 ところが、一人だけ、恐怖と戦うかの如く拳を握り締めながら私に近づいて来る敵が居た。
 変態女幹部、マドモアゼル・パピヨンである。
「ふ、ふふふ、相変わらず自信満々ね、テリプルドミナ。で、でも、私だっていつまでもやられっ放しじゃあ無いんだからねっ!」
「なんですって?」
 あ、何か強気。しかも何気にツンデレ口調。嫌な予感が……
「こんな事もあろうかと、今日はいつもの三倍戦闘員を用意しているの。そう、これは罠。あなたはまんまと引っかかったのよ。出ませいっ! 追加の戦闘員!」
「イーーッ!」
「イーーッ!」
「イーーッ!」
「うわあっ?!」
 路肩に不自然に止まっていたトラックの扉が開き、中から大勢の戦闘員が湧き出る様に現れた。その数、ざっと四~五十人。元から居た二十人程の戦闘員と共に、私の周りを取り囲む。
「やぁっておしまい!」
「イーーッ!」
 マドモアゼル・パピヨンの号令に従って、戦闘員達が襲い掛かって来た。
「おねえさん! どうしよう?!」
 何となく流されるままにここまで来ちゃったけど、そういえば私魔法とか必殺技とか全然教わってないじゃない!
「落ち着いて、ヒカルちゃん。テリプルスマッシュよ! いい? 魔法少女らしく、軽やかに技名を叫びながら相手をぶん殴るの。思いっきりよ?」
 それ全然魔法じゃないじゃん!
「イーーッ」
 一人の戦闘員が両手を広げて襲って来た。
 色々と言いたい事があるものの、とりあえず自分の身を守るため、おねえさんの言う通りにやってみる。
「て、てりぷるすまーっしゅ!」
 掛け声とともに、脇を締めて体の内側から抉り込む様に打ち出した拳は、敵戦闘員の顔面に吸い込まれる様にヒットした。
「ひゃぶっ!」
 ぐしゃ、と鼻骨の砕ける鈍い感覚。それと共に、ナックルにあしらわれた鉄鋲が顔面を引き裂き、複雑な裂傷を作り上げていた。

 あ、なんかいっぱい顔についた。これは……血?

「うわ……ぁ……」
 盛大な返り血を浴びた私は、むせかえる様な、その生々しい暴力の香りに思わず立ちすくんだ。
 崩れ落ちる様に倒れこんだ敵に視線を移す。私に殴られた戦闘員は、あまりの痛みにのた打ち回る事も出来ずにうずくまっていた。
「あぁ……」
 全身が激しく震える。膝がガクガク笑っている。私は両手で自分の体を抱きしめて、その恐怖とも快感ともつかない感覚に抗おうとした。
 ――しかし、その時――
(……やってしまえ)
 どくんっ!
 何か。暗く、どす黒い何かが私の頭に入り込んで来た。
 心の中に黒い衝動が渦巻く。
 足元には、痙攣している血だるまの戦闘員。
(やってしまえ!)
「うふ、ふふふっ♪」
 私は衝動の命ずるままに、足元で痙攣している戦闘員の頭を何の躊躇も無く蹴り上げた。
「!!」
 私の残虐ファイトを目にして、敵の動きが固まった。
「な! なんて残酷な!」
「それが正義の味方のすることか!?」
「おぉ、おのれテリプルドミナ! そこまで我々が憎いか!」
 敵戦闘員達から散々に罵倒される。って言うか、こいつら普通に喋れるじゃん。
 でも、そんな事はどうでも良い。
 手近な戦闘員のむなぐらを掴み、目の前に引き寄せた。
「ヒ、ヒィッ!」
 私の瞳を見て、戦闘員が恐怖に息を呑む。
 うふふ、こんなに震えちゃって。かわいいわぁ。
「残酷? それが正義の味方のする事か?」
「イ、イー」
「あのね、戦いってのはそんなキレイ事じゃ済まないの。なんか甘っちょろいステッキかなんかで可愛らしくぽこぽこ殴ったり『絶対に許せない!』とか言っときながら、瀕死の敵にとどめも刺さずに見逃しちゃったりするのはアニメの中だけよ? 分かる?」
「イー! イー!」
 頭をがっくんがっくん頷かせる戦闘員。んもう、本当にかわいいんだから。
「そう、良い子ね。ご褒美あげちゃう」
「イー?」
「テリプルスマーッシュ!」
「ひでぶっ!」
 私に殴られた戦闘員は回転しながら十メートル程宙を舞い、言葉も無く固まっている敵戦闘員達の前に転がり落ちた。
「さ、面倒だからいっぺんに掛かってらっしゃい」
 紅く染まった右手で、伝説のカンフー・マスターっぽく、ちょいちょいと手招きして挑発してみる。
「さあっ!」
「ヒイーッ!」
 私が一歩踏み出すと、彼等は一斉に飛び退いた。
「無理! やっぱ無理!」
 とか
「あんなの相手にしたら命がいくつあっても足りねえよ!」
 とか叫びながら、一斉に逃げて行った。
 いや、あんたら喋れるんなら普通に喋れよ。
「あ……あらー? 何で、みんな逃げちゃうの、かなー?」
 残されたのは変態女幹部、マドモアゼル・パピヨンのみ。
 ぽつねんと一人置き去りにされた彼女に、私は歩み寄った。
「さぁて、残るはあなた一人ね」
「え? いや、あの、その」
「ずいぶんと頼りになる部下達ね。うらやましぃわぁ」
 拳をボキボキならしながら、間合いを詰める。
「あ、あのね、テリプルドミナさん? 人は、話せば分かり合えると思うの。だからぁ……」
「だから、何?」
「そ、そんな怒った王蟲みたいに真っ赤な目で睨んじゃやだなぁ、みたいな。ネ?」
 あわあわと訳の分からない事を話す変態。しかも無駄に乙女ちっく口調。
「そんな言い方しても全然かわいくな……真っ赤な……目?」

 ……はっ!

 頭の中に籠っていた黒い衝動が、急に消えていった。
「あれ? 私……一体?」
 何、してたんだろ。
 乾いた血で黒赤色に染まった両手を見つめる。たしか、最初の敵をぶん殴ってから、急に残虐な気分になって……
 あれぇ?
「あの~、テリプルドミナさん?」
 ふと気がつくと、目の前で例の変態が泣きそうな顔でこっちを見ていた。
「あ、帰っていいよ」
 なんだか面倒くさいので、しっしっと手で追い払う。
「そそそそ、そう? じゃ、じゃあ、今日の所は、引き分けねっ! あでゅー!」
 そう口早に言い残すと、戦闘員が残していったトラックに素早く乗り込んで、変態女幹部マドモアゼル・パピヨンはものすごい勢いで逃げて行った。
 ふう、終わったか。
 それにしても、さっきの感覚は、一体何だったんだろう?
「んもぉ、ヒカルちゃんったら、素敵よぉ~! 初めての戦いで、あんな見事にダークサイドに浸れるなんて、すごい素質だわぁ!」
「うわぁ!」
 何やら体をくねくねさせながら、興奮冷めやらぬ口調でおねえさんが抱きついて来た。
「い、今のが、ダークサイド?」
「そうよぉ。テリプルドミナは暗黒神様の力をその体に受け止めて、ダークサイドに身を委ねた時に本当の力を発揮する事が出来るの。凄かったでしょ?」
「そんな事聞いて無いし!」
「でもねぇ、残念な事に自分がダークサイドに堕ちてる事を自覚しちゃうと、そこで暗黒神様とのシンクロが途切れちゃうの。惜しかったわぁ。もうちょっとであのクソ女をミンチにできたのに、ねぇ?」
 ねぇ? て言われても……
「んふふ、でもホント凄かったわぁ。おねえさん、もぉ見てるだけで軽くイッちゃいそうになっちゃったもの」
 うっとりとした表情で私を見つめる変態(味方の方)
 ……そうか、あれが『ダークサイドに堕ちる』って事なのか。
  やばい。やばいぞ。
 安易にダークサイドに堕ちちゃったのもアレだけど、何よりも『ちょっとだけ気持ちよかった』事が一番やばい。
 ああ、お母さん。流されていくヒカルを許して。

「あ! そういえば、裕也は?!」
「大丈夫よ。あの子達は私がちゃんと逃がしておいたから」
 おおっ!
 ただの変態かと思っていたけれど、この人もやるべき事はちゃんとやるんだ。正直、ちょっとだけ見直しました。
「じゃあ、裕也は無事なのね?」
「ええ、もちろん。それでねぇ、他の子はみんな帰らせたけど、ヒカルちゃんの為に、裕也君にだけ残ってもらったから」
「ええっ?!」
「んふふ、良い機会じゃない。この際、ここでコクっちゃいなさい」
 私の耳元でそう囁いて、おねえさんが裕也を引っ張り出す。
「そんな、私まだ心の準備が……ってお前何やっとんじゃあ!!」
 裕也はおねえさんの手により亀甲に縛られた上に、猿ぐつわまで噛まされていた。
「いやぁ、私の姿見て逃げ出しそうになったもんで、つい。てへ♪」
「てへ♪ じゃないでしょ!」
 そりゃあ、裕也じゃなくてもそんな格好の変態が向かって来たら、普通逃げ出すわ!
「裕也! 大丈夫? 変な事されなかった?」
 彼を縛り上げている縄を引きちぎり、ボール型のさるぐつわを外す。
「うわあっ! 何しやがる、この変態ども!」
「あ……」
 その時、改めて自分が先程裕也を酷い目に合わせた変態二人と大差無い格好をしている事に気がついた。
「落ち着いて! ヒカルだよ! 助けに来たの!」
「ヒ……ヒカル、なのか?」
 裕也は、何かこの世には有り得ない物を見る様な目付きで、まじまじと私の格好を見た。
「その格好は、一体?」
「私、魔法少女になったの、裕也のために!」
「魔法少女ってお前……俺のため?」
 訳分からん、といった表情で私を見つめる裕也。
 その後ろでは、『やっちゃえやっちゃえ』的なゼスチャーなんだろうか、私に向かってジャブを放つ仕草をしているおねえさん。正直、かなりウザい。
 でも、ここまで来ちゃったんだ。
 なし崩し的な感はあるけど、幼い頃からずっとあたため続けて来た想いを打ち明けるのは、今しか無い。
 私は大きく息を吸い込んで、きっぱりと言った。
「そう! 裕也のために! 私、あなたの事が好きだから!」
 告白によって心のタガが外れた私は、そのまま裕也に抱きついた。
「な?! ヒカル?」
「好き! 好きなの!」
「ヒカル……お前……」
 動揺を隠し切れない裕也は、それでも優しく私の肩に手を添えて、そっと体を離した。
 彼の唇が動く。
「俺、ヒカルの事、嫌いじゃないぞ。ちっちゃい頃からずっと一緒だったし、今でも大切な幼馴染みだと思ってる。でも、お前」
「うん……」
「お前……男だし……」
 

 そう、誰にもどうにも出来ない、神様を呪う事しか出来ない、私の悩み。それは……性別。
 でも、それは昨日までの話。
 ――なんと言っても今の私は――
「裕也。私ね、魔法少女になったんだよ」
「魔法少女って、だからお前、男じゃんか」
「ううん、違うの! 今の私は魔法で、女の子になってるの! さっきこっそり確認したの! ちゃんと、今までぶら下がっていた憎いあんちくしょうが無くなって、代わりに見た事も無いえっちな形の器官がくっついてたわ! そうよ、今の私は体も心も完ッ璧な女の子!」
「何いっ?!」
 そう。あの時、私が本当は男のコだと言う事をふまえた上で、おねえさんは言ったのだ。『あなたは魔法少女になれるの』と。『魔法』『少女』にって。
「どう? 裕也、これで何の問題も無いでしょ? お願い……私と……」
「い、いや、でも、お前普段は男だし……」
「何でもするよ?! 裕也が望む事なら何でも! 裕也がタンスの後ろにいっぱい隠してあるエロゲーみたいな、あんな事とかこんな事とか、一般紙じゃ絶対書けないそんな事までも!」
「マジでか?! いや、でも、お前結局ヒカルなんだし……」
「今一瞬流されそうになったでしょ?! そのまま流されちゃおうよ! ねえ裕也、お願い! 私、あなたの事が本当に好きなの! 好き好き大好き超愛してる!」
 心の葛藤、主に自分の欲望と脳内でガチンコ勝負を繰り広げていたと思われる裕也は、やがて私の目を見て、優しく言った。
「ごめん、ヒカル。俺達、このまま幼馴染みでいよう。色々考えたけど、俺やっぱ無理」
 私に背中を向け、もう一度「ごめんな」と呟く裕也。
「……そう」
 こうなる事は、なんとなく分かってた。
 でも。
 私、それでも。

「ねぇ、裕也。最後に一つだけ、お願い。こっち向いて」
「ん?」
 戸惑いながらも振り向いて、ちゃんと私の目を見てくれる裕也。やっぱり素敵。素敵すぎる。
 でも。
「目をつぶって」
「一体、何?」
「いいから!」
「なんなんだよ、一体」
 文句を言いつつも、ちゃんと言った通りにしてくれる、優しい裕也。
 好き。大好き。もお、心から言える。裕也、大好き。
 私は、その無防備な彼のほっぺたに……
「テリプルスマーーーッシュ!」
「ぐはあっ!」


 キリモミ状に飛んでいく裕也を、私は心から愛しく見つめていた。
 ……さっき、裕也に振られた時に、暗黒神様の声が聞こえちゃったの。
『手に入らないのなら、いっそその手で壊してしまえ』って。うふふ。
 隣ではおねえさんが恍惚の表情で私を見ている。今まさに沈まんとしている夕日にも似た、真っ赤な目をして。



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面白かった!

ヤバイ! 朝っぱらから大満足ですっ。
どうやら、いさおたんの書く『らんじぇりぃ』系のコメディが自分のツボらしい。
いやー、勉強になりました。
今度バトルモノを書くときの参考にさせていただきますw

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某県某市某所にてショットバーを営んでいる、お笑い系バーテンダーです。
主に「ライトノベル作法研究所」というサイトさまにお世話になっております。

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