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2019-01

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いさお駄作劇場外伝  何でもありの勇者さまっ!

 なんだか、超久々の更新です。
 本当なら先日当店で行ったオフ会のレポなど書かねばと思っていたのですが、中々時間も取れなくて……
 まあ、アレはその内書きます。多分、きっと、おそらく……

 それはさておき。

 さきほど、某所にて某戦友より「『何でもありの勇者さまっ』をもう一度読んでみたい」とのありがたきお言葉を頂きました。
 本来なら、新設したpixiv倉庫に置くところですが、どうもあの一軒以来あそこを使う気になれなくなってしまったゆえ、ここで公開させていただきます。

 ――しかし、この作品。
 実を申せば、裏で密かに美少女文庫投稿用に改稿しておりまして。
 そっちの方の目処がつき次第、下げさせて頂こうと考えております。

 そういう訳で、本来ならラ研の高得点コーナーで読んでもらえたであろう問題作(まだ根に持っているらしいw)、何でもありの勇者さまっ、どうぞご笑覧あれ。








 ついに、魔王の居城まで辿り付いた。

 幾多の街を巡り。
 魔物の跳梁する草原を駆け。
 悪の巣窟と化した陰鬱な森を抜け。
 瘴気漂う荒涼とした山を這い上がり。
 途中、洞窟の奥に捕らわれた姫を助けてみたり、世界中に散らばる伝説の武器や防具を集めさせられたり、他人の家のタンスから勝手に薬草を持ち出したりしながら。
 それはもう、世界中をたらい回しにされた。世間では崇められている勇者なんて職業も、その実はお使い係みたいなものである。
 そんなこんなで辿り着いた、最後のダンジョン。
 これまでとは比べ物にならぬ程精強な魔物達との戦い。特に『四天王』と呼ばれる魔王軍の幹部達はいずれもその名に違わぬ強敵で、今もって勝てたのが不思議に思う程の相手だった。
 そして、今。
 禍々しい装飾の施された重厚な扉を前に、俺は最後の戦いに臨む為、己の状態を確認している。
 うむ、大丈夫。体もちゃんと動くし、精神力も保っている。剣を振るうにも魔法を使うにも、何ら問題は無い。
 ……後は。
 後は最後の戦いに、どの様な姿勢で臨むか、だ。

 具体的に言うならば、『どの様に演出するか』である。

 勇者が大きな戦功を残すと、その冒険はいつの間にか『勇者伝』として書籍化され、巷に広められる。
 そこには、どういう訳か当の本人しか知らない様な細部までもが綿密に記載されると言う。そのあまりにも微細に入った描写に、書いているのは神とも異世界からの観測者とも言われているが、真相は謎のままだ。
 まあ、とにかく。
 後世に名を残す勇者として、その冒険のクライマックスである魔王との戦いは、一番手の抜けない所だ。
 強く、正しく、美しく。
 後に『勇者伝 ~魔王討伐編~』として文章化された時に、誰もが手に汗握る様な熱く、かっこ良いシーンに仕立て上げなければいけない。
 さて、どうしようか?
「魔王、覚悟!」とか叫びながら熱血漢を気取って踊り込むのも勇者らしい演出に思えるけれど、これはなんか「十年早いわ!」とか言われて一撃で倒されるパターンにも思える。だめだな、却下だ却下。
 ここは一つ、歴戦の勇者っぽくクールに歩み寄って、
「貴様が魔王か?」
 なんてやってみた方がカッコ良いかもしれないな。うん、そうしよう。
「よし」
 自らを奮い立たせる為に小さく一声発し、扉を開け放った。

 足を踏み入れたそこは、お約束通りの大広間。
 昼なお暗いその部屋には、扉から奥まで深紅の絨毯が一直線に敷かれている。そして、最奥部には扉と同様に禍々しい装飾のなされた、とてつもなく巨大な玉座。何とも基本に忠実な造詣の、『謁見の間』である。
 絨毯の左右には等間隔に燭台が置かれ、まるで魔界へ誘うかの様に蒼い炎がゆらめいていた。
 俺は、自ら考案した演出通りに悠然と歩を進め、玉座へ向かった。剣は鞘に収めたまま、あたかも王に呼ばれた家臣の様に姿勢正しく。良いじゃないか、クールで。うん、実に良い。
 しかし――
 玉座に歩み寄る内に、俺は妙な感覚に侵されていた。
「何だ? 距離感が掴めない……罠か?」
 警戒しながら足を進める。良く見ると玉座が巨大なのでは無く、座っている人物が小さい事に気が付いた。何の事は無い。単なる遠近法が引き起こす錯覚である。
「うぬ!」
 こんな所で、せっかく今まで積み上げて来た演出を失う訳にはいかない。気を取り直して、更に間を詰めた。

 ところが。

 暗がりの中から魔王の姿を視認した、その瞬間。
 俺が今まで作り上げてきた演出、その全てが一瞬にして崩壊した。

 ☆

「良くぞここまで辿り付いた、人間よ。その勇気と力には賛辞を送ろう」
「……」
「死に行く者への、せめてもの情けじゃ。名を聞いておこうか」
「…………」
「何じゃ? 人間は礼儀というものを持ってはおらぬのか? 早く名乗るが良い」
「……えーと。お嬢ちゃん、そんなところでイタズラしてると、魔王さまにおこられちゃうよー?」
 玉座にちょこんと腰を下ろして偉そうに踏ん反り返っている可愛らしい少女に、俺は、どうにか喉から搾り出した声で、話し掛けた。
「ふざけるな人間! わらわが魔王じゃ!」
 魔王としての威厳もへったくれも無く、その少女は激昂して立ち上がった。『むきー!』とか言いそうな勢いだ。
「……これが魔王、だと?」
「むきー! これ言うな!」
 改めて、魔王を自称する少女を良く見てみる。
 人間だったら、十歳に届かどうかという位であろうと思われる、幼い顔と体型。少女と言うよりむしろ幼女。カールした長い黒髪と、負けん気の強そうなつり目がなんともチャーミングだ。
 そして、その未発達の体に、禍々しい装飾や不自然な程に巨大な宝石の施された皮のビキニをまるで巻きつけるかの様に纏い、光沢のある黒いマントを羽織っている。
 そのアンバランスな出で立ちは、しかし一種倒錯的な『美』を作り上げ、芸術的とすら感じさせる程彼女にマッチしていた。
 ぶっちゃけ、俺の好みのド真ん中である。
「くッ! こんな超俺好みの可愛らしい幼女たんが魔王だとは…………はっ!? これはまさか!」 
「何を訳の分からぬ事を言っておるか! わらわが直々に相手してくれる。かかって来るが良い、人間!」
「ふ、ふふふ、そうか。そういう事か。危うく騙される所だったぜ!」

 ――魔王は、心の中の一番弱い所を突いて、罠を仕掛けてくる。勇者殿、自分をしっかりと持って戦うのぢゃ――

 そんな事を、以前どこぞの宿で出会った老人から聞いた事がある。
 そう。
 奴は、魔王は瞬時に俺の心を読み取り、『幼女たんが大好き』という俺の最も弱い所に付け込んで来たに違いない。
「なんたる卑怯なッ!」
 怒りの炎が俺の心を真っ赤に燃やす。
 卑怯な罠に対する怒りだからな! 決して、一瞬萌えちゃった自分に対する怒りじゃ無いんだからな!
「この勇者ペドロに、その様な小細工は通用せん! 行くぞ!」
 手早く呪文を詠唱して幾つかの火球を作り出し、俺はそれを牽制として魔王目掛けて放った。
『魔王』と言われる位のレベルなら、こんな初歩的な魔法は余裕を見せて「ぬるいわ!」とか言って片手で弾いたりするに違いない。
 そこを先読みして、俺は火球を放つと同時に駆け出し、態勢を崩した敵に必殺の斬撃を
「きゃあああああっ!」
 火球の炸裂する轟音をかき消す様に、魔王の悲鳴が響き渡った。
「え?」
 突進を止めて様子をうかがってみると、直撃を受けた魔王が、同じく火球が当たって破壊された玉座の下敷きになっていた。ぷすぷすと燻っている残骸の中から、キュートなお尻をむき出しにして埋まっている。
「えーと……魔王?」
 魔王の、そのあまりにもな体たらくに追撃する気力を削がれた俺は、とりあえず彼女(?)が残骸の中から這い出て来るのを待つ事にした。
 が、いくら待っても魔王が出て来ない。というよりも出て来れない様だった。
 本人は這い出ようとじたばたしているのだが、マントがどこかに引っ掛かっているらしく、上半身を抜き出す事が出来ないでいる。その内、ついに出るのを諦めて「ひぐっ、ひぐっ……」と泣き出していた。
 ――何かこれじゃあ俺、すっごく悪い事しているみたいじゃないか――
 傍から見たら、これはどう見ても『幼女に攻撃魔法をぶち当てた上に、瓦礫に埋めて苛めている変態』にしか、見えないだろう。
 罠か? 罠なのか? これは。
 これが罠だとしたら、魔王は本当に恐ろしい奴だ。俺の心の一番柔らかい場所を巧みに突いて、『罠だと分かっていても入り込まねばならない』状況を作り上げている。
 何と言う事だ。俺はいつの間にか、こんなにも追い詰められているではないか!?
「しくしくしくしく……」
「ああっ、もう!」
『慈しむ対象』である幼女たんをいぢめる趣味を持たない俺は、意を決して瓦礫の中から魔王を引きずり出した。
 予想に反して魔王は本当に出て来れなかったらしく、煤と涙で顔をぐちゃぐちゃに汚しながら恥ずかしそうに、
「ひっく……貴様の情けなど……ひぐっ、受けぬぞ、人間」
 と、半ギレ気味に怒りながら泣いていた。
 既にマントはぼろぼろで、全身は煤にまみれた上にすり傷だらけ。満身創痍という言葉通りの未発達ボディは、俺の戦意を打ち消すに充分すぎた。
「まさか、本当に子供なの……か……?」
「子供言うな! わらわはれっきとした魔王じゃ。手加減などしたら……承知……せぬ……ぞ……」
 気丈にもそう啖呵を切った魔王だが、言い終わらぬ内にふらりと倒れた。
「おっと」
 反射的に抱き支える。彼女は、俺の腕の中で気を失っていた。
「うーむ。どうしよう?」
 見かけ通りに軽いその体を、とりあえずお姫様だっこで抱え上げる。
 どこかに休ませる場所でも無かろうかと、辺りを物色していたその時。
「あの……」
「!?」
「どうして、姫様を助けてくれたのですか?」
 突然掛けられた声に驚いて振り向くと、そこには妙齢の、美しい魔族の女が怯えた瞳で俺を見詰めていた。

 ☆

 ――あれから三日。
 図らずとも『魔王』を名乗る幼女たんをフルボッコにしてしまった俺は今、なし崩し的に彼女の看病をしている。魔族の総本山たる魔王の居城にもかかわらず何故か人影は無く、ヒルダと名乗った件の美しい女性一人と数匹の使い魔が居るのみであった。
「まだ眠ったままなのか?」
 魔王の寝室に足を運び、ベッドの横で待機しているヒルダに声を掛けた。
「はい。先程までは少しうなされていましたが、今は穏やかにお休みになられています」
 促されて、魔王の寝顔をのぞき見る。
 やはり禍々しい装飾の施された天蓋付きのベッドに眠る彼女は、魔族に対して使うのもおかしい比喩だが、まるで天使の様に愛らしかった。
 幸いな事に、俺の放った攻撃魔法はちょっとした火傷程度で済んでいた。さすがは魔族の長だ。体中に出来た擦過傷も、ヒルダが回復魔法で塞いでいた。しかし、それでも幼い体と心は大きな負担を受けたらしく、彼女はあれからずっと深い眠りに落ちていた。
「正直、今でも彼女が『魔王』というのが信じられないのだが……」
「無理もありません。先代の魔王様が病で崩御されてから、僅かに半年。本来なら四天王の何れかが摂政となり、姫様が成人されるまで政事を引き受ける手筈だったのですが……」
 ヒルダはそう言葉を零すと、悲しそうな瞳で俺を見詰めた。
 その瞳は、『あなたさえ居なければ、そうなっていたのです』と、言葉は無くとも物語っている様に、俺には思えた。
「あなたが城内に入って来た時、姫様はこう言われたのです。『四天王までもが敗れた以上、もはや我が軍もこれまで。皆は逃げ、生き延びよ。わらわはせめて、長としての責務を果たそう。誰も手出しするでないぞ』と。せめて侍従長である私くらいは一緒に戦わせて下さいとお願いしたのですが、聞き入れてもらえませんでした」
「そうだったのか」
 ベッドに横たわる幼い魔王に視線を戻す。その姿は、一見すると町で戯れている人間の少女と何ら変らない。彼女はその小さな体で、魔族の誇りを守る為に俺と戦ったのだ。
 美しいだけでなく、尊敬に値する幼女たんであった。素晴しい。実に素晴しい。
「姫様は、野心家であられた先王様と違い、人間族との共存を考えておいででした。しかし、姫様が即位された時には既に人間族と魔族との間には、埋められない程の溝が出来ていたのです。そこで姫様はまず、先王様が捕らえていた人間族の姫を返して、和平の道を探ろうとしていたのですが、その矢先……」
 ああ。それを邪魔したのは、またしても俺なのか。
「それは……何というか。その、すまなかった」
 我ながら間抜けな返答だと思うが、他に上手い言葉も見当たらず、俺はヒルダに頭を下げた。
 彼女はそんな俺をしばらく複雑な瞳で見詰めていたが、不意にはにかんだ様な笑みを浮かべて、
「ペドロさんみたいな勇者も居るのですね」
 と、心なしか嬉しそうに言った。
「人間の、特に勇者と言われている者達はもっと冷酷で残虐で、私達魔族を殺す事のみに生き甲斐を感じている様な輩だと思っておりましたから」
「俺は、魔族にそんな風に思われていたのか……」
 まあ、考えてみれば俺達人間も魔王や魔族に対して似たような認識を持っているのだから、とても言えた義理でも無いのだが。
 人間には持ち得ない強大な魔力を持ち、魔物達を操り、我々が作り上げた世界を脅かす邪悪な存在。それが、俺達人間から見た魔族のイメージであり、その頂点に君臨しているのが、冷酷非道の『魔王』だと教えられて来た。
 しかし。こうやって話し合ってみると、魔族も人間も大差無い事が良く分かる。
 そもそも外見だって人間と殆ど変らない。違うところと言えば尖った耳や、深紅の瞳。そして透き通る様に美しい、白い肌くらいなものである。
 あらためてヒルダに視線を送る。
 歳の頃は、人間だったら二十代後半くらいだろうか。長い黒髪を上品に纏めた、美しい女性だ。身に付けている城付きのメイドみたいな服装は、細身でありながらも出るところは十分以上にしっかりと出ている体型を強調させている。これほどの女性は人間界にはそうそう居ないだろう。
 だが。
 残念な事に、俺は大人の女に興味は無い。
 俺は彼女から視線を逸らし、ベッドに眠る魔王たんに眼を移した。
 柔らかそうな枕と毛布にまるで埋まる様に体を収めて、安らかな眠りに就いている。半開きの口元が何とも愛らしかった。
 ――こんなに俺好みの可愛らしい幼女たんが、魔王とは――
 遂に出会った理想の幼女が、よりによって倒すべき魔王だったとは、何と言う運命の悪戯だろう。ああ、神よ。貴方はどこまで俺を苦しめるおつもりなのですか?
「もう一度、お聞きします。何故あなたは姫様に止めを刺さなかったのです? 魔王を倒す事は、あなたに課せられた使命でありましょうに?」
 熱っぽい瞳で彼女を凝視しながら悶々と思案していたその時、ヒルダが突然問い質して来た。
「俺は、誇りある人間族の勇者だ。たとえそれが使命であったとしても、年端もいかぬ幼な子を殺す事などできない」
「本当は?」
「あんな俺好みの完璧な幼女たんを、どうして傷つけられ……はっ!?」
 彼女の巧みな誘導に、つい本音を吐いてしまった。
「やはり……戦いの一部始終を拝見しておりましたが、あなたの姫様に対する視線や態度は尋常ではありませんでしたものね」
 ヒルダは、なぜか悲しげな目付きで俺を見ていた。
「ば、ばれてしまったのなら仕方が無い。そう、俺は幼女たんにしか興味を持てない男なんだ」
 事ここに至っては、もはや言い訳も利くまい。俺は素直に白状した。
 この世に生を受けて二十余年。『勇者』の家系に生まれた俺は、幼い頃より『人間の平和を脅かす魔王を倒す為』だけに鍛えられ、生きてきた。同世代の女性と接する機会など殆ど無く、そうなれば当然女性との接し方など身に付くはずも無い。いつしか俺は無垢な幼女にしか愛情を注げない人間になっていたのだ。
 分かっている。ああ、分かっているさ。彼女はきっと次の瞬間には俺の事をゴミでも見る様な目で見て、『そうでしたか変態。このペド野郎』とか言うに決まってるんだ。嗚呼、魔族にまで罵られる事になろうとは。そういえば、こんな展開になってしまって俺の『勇者伝』は一体どうなってしまうのだろうか? 『勇者ペドロは幼女趣味を持った変態だった』とか書かれてしまうのか? 今まで必死に隠していたのに……
 云々、頭の中で俺は様々な事に思いを巡らせていた。
 ところが。
「あの……年上の女には、興味は湧かないんですか?」
 信じ難い事にヒルダ俺を蔑む事もせず、それどころか恥ずかしそうな笑みを浮かべつつ着ていたエプロンドレスをするりと脱ぎ捨て、俺にその美しい肢体を晒け出した。
「な、ヒルダ! ここここれは、一体!?」
「いかがですか? ペドロさん。私の体では、物足りません?」
 豊満な胸とくびれたウエストのバランスが見事に取れた、綺麗な体のライン。身に付けている黒い上下の下着とガーターベルトで吊られたストッキングが、かえって全裸よりもいやらしい雰囲気を醸し出している。
「侍従長として、みすみす姫様をあなたの毒牙に掛ける訳にはまいりません。その代わり、私の体を差し上げます。どうぞ、ご自由にお使い下さい」
 ヒルダはそう言うと、あまりの展開に付いて行けずに固まっている俺にすがり付く様に体を寄せて来た。
「ちょ、おま、一体何言ってむぎゅ!」
「さあ、ペドロさん。私の体で存分に楽しんでください」
 うろたえる俺の頭を抱き寄せ、彼女はその豊満な胸に埋めた。
「ぷはっ! 待て待て。何度も言うが俺は大人の体には興味が湧かないんだ」
「本当に? 大人の体を知らないだけなのではありませんの?」
「あう」
 確かに、知らないのかと問われれば知らないし、なんか色んな所に当たるやわらかい彼女の体は大変気持ち良くもあるのだが……鎧付けてなくて本当に良かった……じゃなくて、俺は……俺は……
「ふふっ。体は正直ですよ? ほら……」
「うあ。ば、ばか、やめろって」
 混乱の極みに達している俺は、どうしたら良いのかの分からずヒルダにされるがままになっていた。彼女の指が、まるで独立した意志を持つ生物の様に俺の体をまさぐりながら服を脱がしに掛かった。
 心臓が有り得ない速度で鼓動している。
 驚いた事に、幼女にしか興味が無かったはずの俺が、彼女の猛攻にかつて無い位の興奮を覚えていた。
「さあ、ペドロさん。私が大人の女を教えて差し上げますわ」
 妖しい輝きを纏った瞳で、ヒルダが俺の頭に両手を添えてくちづけようと引き寄せる。
 そして、まさに唇と唇が触れ合う刹那――
「わらわの寝室で何やっておるかー!」
「きゃん!」
 飛んできた銀の燭台がヒルダの側頭部を直撃した。ごんっ! と鈍い打撃音が鳴り響き、彼女がキリモミ状に回転しながら床に崩れ落ちる。
 突然の出来事に驚いてベッドを顧みると、いつの間にか起きていた魔王たんが怒りもあらわにヒルダを睨んでいた。

 ☆

「お、起きてたのか、魔王たん」
「……ドーラ」
「はい?」
「わらわの名じゃ。ドーラと呼んでたも」
 魔王、もといドーラたんは起こした体を隠す様に毛布を引き上げ、何故か恥ずかしそうにそう呟いた。そして、俺の足元で『あいたたた、カドがっ、カドがっ』と呻きながら頭部を押さえてうずくまっているヒルダに、
「まったく。城の男達だけでは飽き足らず、人間の勇者までもくわえ込もうとは呆れた奴じゃ」
 と、冷たく言い放った。
「そんな、酷いです姫様。ヒルダは自らを犠牲にして姫様の純潔をお守りしようと頑張っていたのに!」
 結構もの凄い音がしたにもかかわらず、ヒルダはむっくりと立ち上がり涙目で彼女に抗議した。意外と頑丈なんだな、ヒルダ。
「そなたがいつもそうやって、清純なフリをして男に擦り寄って片っ端からつまみ食いしているのを、知らぬとでも思ってか? それにペドロはわらわの主になるのじゃ。手を出す事はゆるさぬ」
「……はい?」
「……姫様?」
 あまりにも突然な言葉に、俺はおろかヒルダまでもが瞬時に固まった。
 今、この子何て仰いましたか?
 またしてもフリーズしている俺に、ドーラたんは真顔で向き合った。その幼くも真剣な表情は、『幼女でありながら、魔族の長』という立場同様にアンバランスであったが、それだけに魅力的でもあった。
「魔族の長であるわらわが、決闘で負けた上に情けまでかけられた。こうなってはもはや是非も無し。わらわはそなたのものになるより、他にあるまい」
「な、何その突飛な発想?」
「強き者に従う。それが魔族のしきたりじゃ。今日よりわらわは、そなたのものじゃ」
 そう言って、ドーラたんは体を隠している毛布をはらりと落とした。身に付けているのは、黒い透け透けのベビードールのみである。
 そして、
「さあ。わらわの体を、好きにしてたも」
 と呟いてベッドから這い出て、その幼くも美しい裸体をさらけ出した。
「ま、ままままままま待ちなさいドーラたん」
「何じゃ? わらわの体に、興味は湧かぬか?」
「湧きます。間欠泉の様にどびゅっと湧きます。しかし……まさかそんなおいしい話が……」
 俺は今や、完全に混乱していた。
 幼女にしか興味を持てないと思い込んでいた、俺の性癖。それをヒルダに強引に修正させられたのかと思った矢先に、有り得ない程の極上幼女が『好きにするが良い』なんて言って、ほぼ全裸で迫って来る。こんな事が、本当に有って良いのか!?
 再び、まじまじとドーラたんを見詰めてみる。うん、見れば見る程に隙の無い、完璧なまでの幼女たんだ。
 俺の脳内に住み着いている悪魔が、
(やっちゃえyo! 本能の赴くままに!)
 と囁きかけてきた。簡単に陥落する俺。
「い……いいの?」
 ごきゅりと唾を飲み込んで、どうにかそう言葉を搾り出した。
「ふふっ。わららが『良い』と言っておるのだ、我慢する事もあるまい」
 ドーラたんが、その幼い顔に似合わない程にえっちな表情で歩み寄る。
 しかし、今度はやはり俺の脳内に住まう天使が、
(だめだって。こんな事、良く無いって)
 と、なけなしの理性を発起させる。
「そ、そうそう。ダメだよドーラたん。幼女との恋愛はプラトニックぢゃなきゃいけないって、どっかのエロい人も言っていて……」
 ところが、俺の精一杯の抵抗にも、彼女は笑顔を崩さず、
「そなたが言うは、人間界の理であろう? ここは魔族の領域。人間の倫理もなんちゃら条例もわらわ達を縛る事かなわぬ。さあ、わらわをどうにでもしてよいのだぞ」
 と、甘い声で囁きました。
 脳内で、悪魔と天使が激しく格闘。当然の事ながら悪魔圧勝。
「で、でででは遠慮なくっ」
 心の片隅に残った理性を払いのけ、彼女に手を伸ばしかけた矢先。
「お待ち下さい、姫様!」
 ヒルダが、今まで見た事も無い程真剣な顔で俺とドーラたんの間に入り込み、彼女を諫めにかかった。
 カウント九から奇跡的に立ち上がった脳内天使が、今度は悪魔をフルボッコ。
「そ、そそそそうそうだね。ヒルダの言う通り、ちょっと待って冷静になろう」
 どうにか理性を取り戻した俺が、ヒルダの背中越しにそう言った途端、しかし彼女は
「今回は私が先にツバつけたんです! いくら姫様とはいえ、お譲りする訳にはまいりません!」
「そっちかよ!」
 俺の突っ込みを綺麗に無視して、ヒルダは俺の体を抱きしめながらドーラたんに対峙した。
「姫様に睦事は、まだ早うございます。でもご安心下さい。ペドロさんには私がしっかりねっとりくっちゅりご奉仕致しますから」
「わらわは幼いとはいえ、魔族の長じゃ。普段そなたがやっているあんな事とかこんな事とかだって、立派にこなしてみせる! ちゃんと毎晩覗き見してたからな! それに、ペドロがわらわを見る時の、欲情にまみれた視線をそなたも知っておろう?」
 ドーラたんも、ヒルダに負けじと彼女を払い除けるようにして俺にすがり付いて来た。ヒルダとはまた違った、ぷにぷにとした感触が何とも気色良い。
「さあ、ペドロ。わらわの身も心も、そなたのモノにしてたも」
「いいえ、ペドロさん。私が大人の体というものを徹底的に教えて差し上げますっ」
 二人は、主と臣下という立場を忘れているかの様に互いを押したり引っぱったりつねったりしながら、俺の体に絡みつく。
「ちょっ、こら! 二人とも冷静になろうよ。冷静にっ!」
 まるで、浮気現場に殴り込んできた本妻と開き直った愛人の間に挟まれた亭主の様な事を口走りながら、俺はどうにか二人を諌めた。人間、あまりにも予想外な事が起きると、かえって冷静になるものらしい。
 取りあえず俺から体を離した二人は、しかしそれでも一触即発と言った雰囲気で対峙している。そう。問題は、根本的には何も解決していないのである。
「そも、ペドロよ。そなたは一体どっちを選ぶのじゃ?」
 突然、はたと思いついた様にドーラたんが俺を問い詰める。
 そして、その言葉に反応してヒルダまでもが、
「そうですペドロさん。この際はっきりと選んでくださいな」
 と、俺に矛先を向ける。これじゃあまるで、本当に浮気した夫みたいじゃないか。俺まだ何にもしてないのに。
「とは言え、ただ闇雲に『どちらを選べ』と問うのも酷じゃの」
 そう呟いたドーラたんは、再びあのえっちな笑みを浮かべると改めて俺に向かい直り、
「とりあえず、味見してみるがよい」
 着ているスケスケのベビードール、その端を手で摘みあげてゆっくりとたくし上げる。
 と、なれば当然、
「では、是非私の事も味見して下さいな」
 ヒルダも必要以上にいやらしい仕草で着ている下着を脱ぎ捨て、俺にその姿を晒す。もはや身に着けているのはガーターベルトと黒のタイツのみ。
 って君達、結局状況はさっきと何も変わって無いですよ!? しかも味見って何! 味見って!
「さあ、ペドロ。遠慮せずとも良いのだぞ……」
「どうぞ、お召し上がりくださいな……」
 二人がにじり寄る。
 ――どうしよう? 俺どうしよう? いいの? マジでいいの?――
 人生で初めてやって来た、凄まじいまでのモテ期。
 しかし、その有り得ないシチュエーションを理解する時間は、俺には与えられなかった。何故かと言うと――

 次の瞬間。凄まじい轟音が響き渡り、城が大きく振動した。

 ☆

「きゃあっ!」
「何事じゃ!」
「これは、一体?」
 突然の事に驚愕している俺達の下に、ヒルダの使い魔がぱたぱたと小さな羽をはばたかせ、現れた。
「ヒルダサマ。大変、大変。人間ガヤッテ来タ!」
「何だって!?」
 魔族の二人よりむしろ、俺が一番驚愕していた。
「そんな馬鹿な!?」
 俺は真相を確かめるべく、鎧も付けず押っ取り刀で部屋を飛び出した。
「あ! 待てペドロ! わらわを置いて行くな!」
「わ、私も!」
 後を追って来る二人を気にする余裕も無く、俺は全力で駆ける。
 ――誰が来たんだ?――
 いくらこんなコントチックな状況に有るとは言え、ここは魔王の居城。こんな所に来れる人間なんて、それこそ魔王討伐に選ばれた勇者くらいなものである。
 そして、人間界に『勇者』の称号を持つ者は常に一人。そう決まっている。
 今の代の勇者は、もちろん俺。その俺がここに居ると言うのに、他の人間が来るとは一体どういう事だ?
 まさか、もう俺が魔王に敗れたと思って新たな勇者が選出されたのか? いやいや、もしそうだとしても、昨日の今日でここまで辿り着ける筈が無い。俺だって、ここを突き止めるのに二年も掛かったんだ。
 だったら、一体誰が?
 そこまで思案を巡らせていた時、謁見の間から
「勇者さま! ペドロさまはいずこに!?」
 と、俺を探し、呼ぶ女性の声が聞こえた。
「この声は、ステラ姫!?」
 あまりにも意外な出来事に驚きつつ、謁見の間に飛び込んだ。

 そこには、かつてどこぞの洞窟から救い出した人間界の王女、ステラ姫の姿があった。
「ペドロさま! ご無事でしたか!」
 純白の戦装束に身を包み、供の騎士を従えた彼女は俺の姿を認めるや否や、輝かんばかりの笑みを浮かべて走り寄って来た。
「姫! どうしてここに」
 俺は自分で見ているものが信じられず、改めて姫を凝視した。
 さらりと流れる見事な金髪のロングヘアーに、意志の強そうな瞳。俺の好みよりも少々お姉さんなのが玉にキズだが、それでも十分以上に可憐で美しい容姿。うん。確かにステラ姫だ。
「ペドロさまが最後の戦いに臨んでより、既に十日。わたくし居ても立ってもいられず、護衛の騎士に頼み込んで、連れて来て頂きましたの」
「し、しかし。どうしてこの場所を……」
「あら、お忘れですの? ペドロさまに居城の場所をお教えしたのは、わたくしですのよ?」
 あ、そう言えばそうだった。
 先代の魔王にさらわれた姫は、しばらくこの城に軟禁されていんたんだっけ。それで、彼女を助け出した折にその場所を教えられて、俺は辿り着いたんだ。
「だからと言って姫。こんな危険な場所に供一人従えてやってくるなんて、軽率すぎます。もう少し立場をご自覚下さい」
 俺の苦言に、それでも姫は屈託の無い笑顔で、
「平気です。サイモンはこう見えて城内でも一、二を争う程の使い手ですから。もう、すっごく強いんですよ?」
 と、背後に立つ騎士をまるで自慢のおもちゃをみせびらかす様に、俺に紹介した。
 顔面まで完全に防護している全身鎧に身を包んだ彼は、その姿に見合わぬ若い声で、
「いえ……恐縮です……」
 と、擦れるような小さい声で答える。意外とシャイなんだなサイモン。だから顔隠しているのかな。
 ふと、そんなどうでも良い事を考えていた時。ステラ姫が砕け散った玉座を指差して言った。
「あの様子を見ると、見事魔王を討ち取ったようですね。さすがです、ペドロさま」
「いや、まあ、倒したというか、何と言うか」
「これで私達、やっと結ばれる事ができるのですね……」
「まあ、結ばれるっちゃあ、結ばれ……姫、今何と言われました?」
 俺の問い掛けに、ステラ姫は拗ねた様な瞳で、
「もう、ペドロさまったら。わたくしの唇を奪っておいて、そんな事を仰いますの?」
 と問い詰めてきた。
 ――あ。
 そうだ。思い出した。洞窟に軟禁されていた姫を助け出した時、感極まった姫が差し出して来た唇につい、勢いで『ちゅっ』てやってしまったんだ、俺。
 した後に、『うーむ、惜しい。あと五歳くらい幼かったら完璧なのに』と思ったくらいで、その後すっかり忘れていたのだが。よくよく考えて見たら、俺は世間知らずの王女様に手を付けてしまったのか。うん、場の空気というか、テンションっていうか、そういうのは本当に怖いな。
「忘れたと言うのなら、思い出させてさしあげます」
「え? んむっ!」
 ぼーっと考えていた俺の頭を姫が強引に引き寄せ、熱烈なキスをしてきた。
 情熱的な姫の唇が俺を捕らえた、まさにその瞬間――
「一体、何が起きたのじゃ!?」
「ペドロさん、私達を置いてくなんて酷いです!」
 これ以上は無いくらいの素敵なタイミングで、二人が現れた。



「そなたは、確かステラ姫だったな。我が居城に許可無く入り込み、あまつさえわらわの主、ペドロの唇を奪うとは言語道断。やはり人間はモラルなど持ち合わせておらぬ様だ」
「お言葉ですがドーラ姫。わたくしはあなたよりもずっと先に、ペドロさまに唇を捧げておりますの。人の物を横取りしようとは、魔族のモラルなどたかが知れておりますわね」
「お二人とも、今日はもうお休みになられたら如何ですか? 『子供』には夢を見る時間が必要です。ああ、ご安心下さい。ペドロさんは私がじっくりと『大人』のご接待を致しますゆえ」
 三人は互いに殺人光線でも発しそうな瞳で睨みあいながら、それでも表面上は淑やかに会話を続けている。その取り繕った会話が、俺は逆に怖かった。
「あのー。えーと、皆さん? 俺の選択権というか、拒否権みたいなものは」
「黙っておれ」
「静かにしていてくださいまし」
「今、忙しいんです」
 彼女達の殺気に満ちた視線が一瞬、俺を貫く。本当に殺されるかと思った。
「ステラ姫、唇ごときでいい気になって貰われては困るな。わらわはご覧の通り、ペドロに生まれたままの姿全てを捧げておる。おままごとなら城で護衛の騎士でも相手にしているが良い」
 ドーラたんが、相変らずスケスケのベビードール一丁の限り無く全裸的な姿を誇示して、ステラを挑発した。
「まてまてドーラたん、そんな誤解を生む様な事」
「裸ぐらい、何だと言うのです!」
「え? って何やってんだ姫!」
 ドーラたんの挑発に乗ったステラ姫が、戦装束を次々と脱ぎ捨て、瞬く間に下着姿となった。
「どうですか、ペドロさま!」
「うあ……」
 ステラ姫の裸身は、想像以上に美しかった。
 神々しい程純白に輝く絹の下着が、少女から大人へ生まれ変わろうとしている、その優美とも言える体の曲線を見事に強調していた。ドーラたんのつるぺたなロリータボディももちろん素晴しいが、ステラ姫の成長途中にある瑞々しさもまた、捨て難かった。
「ほら、ドーラ姫。ペドロさまのこの物欲しそうなお顔がお見えになりまして?」
 今度はステラ姫が勝ち誇った表情で、その膨らみかけた胸を反らしてドーラたんを挑発する。何この王族ストリップ対決。
 そんな二人に、まるで見せびらかす様にヒルダが、
「まあまあ、お子様方がその様な格好をして。姫様も、人間の姫様もお風邪を召されぬ内にその貧相なお体をお仕舞い下さいな」
 と、その豊かな胸をぷるんっと震わせて、二人をまるで見下す様な口調で諌めた。
「おばさんは黙ってなさい!」
「お、おばさん!?」
 ステラ姫の一言に、ヒルダの笑顔が瞬時に凍りつく。場の空気が急激に冷えた様に感じるのは、気のせいだろうか?
 そんな俺の寒気を知ってか知らずか、下着姿のステラ姫はさらに追い討ちを掛けた。
「貴方、ただの姫付きのメイドでしょう? そのメイドがあろう事か王族同士の争いに口を突っ込み、あまつさえそんな下品な裸体まで晒して。何ですかそのはしたない、無駄に巨大な胸は!」
 むねはー…… むねはー…… むねはー……
 ステラ姫の発した言葉が残響音となって広間に響く。
 一瞬、訪れた静寂。
 それを打ち破ったのは、ヒルダだった。
「……姫様。とりあえず、ペドロさんの事はこの生意気な人間の姫を始末してから考えましょうか?」
 彼女が、その紅い瞳に殺気の炎を纏わせた笑顔でドーラたんに伺いを立てた。それは、見詰められたドーラたんが思わず「ひっ!」と声を立てる程の、凄まじい笑顔だった。
「密かに回収して蘇生させておいた四天王、出ませい!」
 ヒルダが声を荒げて、ぱちんと指を鳴らす。
 それに呼応して、天上から四本の巨大な、クリスタル製の円柱が現れた。
 得体の知れない液体に満たされたその透明な円柱の中には、かつて俺が打ち倒した四人の魔族が入っている。
「ヒルダサマ、マダ早イ! マダ早イ!」
「構いません。今使わずしていつ使うのです!」
 止めに入った使い魔を退けて、ヒルダは呪文を詠唱した。
 次の瞬間、耳障りな高音を発して円柱が砕け散り、蘇生された四天王がその姿を現した。
 ……が、しかし。
「ぶしゅしゅしゅしゅしゅ」
「ぐぶぇへへへへへへへへ」
「ぎゅふふふふふふふふふ」
「もほほほほほほほほほほ」
 四天王達は焦点の合ってない血走った目で、涎やら何やらたらしたり手足がへんな方向に捻れてたりしながら、ずるずると体を引きずる様に這い出て来た。生前の、俺と戦った時とは似ても似つかぬ姿である。
「腐ってやがる。出すのが早すぎたんだ……」
 しかし、彼等のそんな状態を無視して、激昂したヒルダは命令を飛ばす。
「薙ぎ払え!」
「きしゃあああああああ!」
 呼応した四天王達が、四つんばいの体勢のまま口を大きく開けて謎の光弾を放った。何気に戦い方まで変ってるし!
「サイモン!」
「はッ!」
 素早く姫の前に立ち塞がったサイモンが、放たれた光弾を剣で弾き返す。明後日の方向に跳ね返された光弾が何処かの壁面に当たり、城が大きく揺れる。
 その振動を合図に、四天王達とサイモンの激闘が始まった。

 ☆

「て、おーい。お前等、俺を無視して何やっちゃってるのー?」
 全身鎧に身を包んだサイモンが、その姿に似合わぬ俊敏な体裁きで斬撃を放ち、それを四天王の一人が発動した魔力の盾で受け止める。剣が弾かれ、サイモンが大きく体勢を崩した。
「お前等さー。これ以上、俺の『勇者伝』をぐだぐだにしないでくれないかなー?」
 体勢を崩したサイモンの周囲を四天王が囲み、一斉に光弾を放つ。サイモンは盾を振り払い、その全てを打ち消した。そのまま姿勢を建て直し、眼前の一人を逆袈裟に斬り付ける。閃光が煌き、相手の右腕を見事切り落とした。
 すると、次の瞬間、
「きしゃああああああああ!」
 切り落とされた部位から何十本もの触手がうねうねと這いずり出て来て、そのままサイモンを絡め取ろうとする。
「や、それダメだから。そこから先は色々とマズいから」
 そんな俺の忠告を無視して、触手が無駄にイヤらしい動きでまとわり付く。
「ひゃええええっ!?」
 思わず女の子の様に高い悲鳴を上げたサイモンは、それでも冷静になって自分に絡み付いて来た触手を剣で薙ぎ払った。
「ぶびゅっ」と濁った体液を撒き散らして、触手がのたうち廻る。
「だからソレ不味いって……ガチでやヴぁいって……」
 俺の切実な思いが届いたのだろうか。サイモンはそれ以上触手に構う事無く、そのまま本体に鋭い斬撃を加え、打ち倒した。
 仲間の一人を殺られた四天王は、さらに激昂しながら光弾だの触手だのを出してサイモンを攻め立てて来る。
「なー、お前等さ―。『勇者の顔も三度まで』って言葉、知ってるかー?」
 もちろん俺の言葉が彼等の耳に入る筈も無く。静まるどころか更に激しい闘いを展開していた。
 残された三人が今度は横陣を組み、小さい光弾を無数に放った。サイモンはそれを剣と盾で弾きながら間合いを詰める。
 彼が弾き返した光弾の一つが『ちゅいんっ』と俺の頬を掠め、小さい切り傷をつけた。
「…………きさまら」

 血が、つーっと頬を伝う感触を覚えた瞬間。俺の中で何かが弾けた。

「貴様等いい加減にせんかあああああ!」
 抜き払った剣にありったけの魔力を込めて、渾身の土壇斬りを放つ。
 放たれた魔力は床を切り崩しながら一直線に疾り、その直線上に居た残りの四天王三人を巻き込み、そのまま壁をぶち抜いて虚空に消えた。
「はあ、はあ……しまった。怒りに任せてつい、魔力を全て斬撃に乗せてしまった。みんな無事か?」
 図らずも対魔王戦に取っておいた最終奥義を使ってしまった俺は、改めて広間を見回した。
 俺の放った一撃は、広間を対角線上に一断していた。その右側にドーラたんとヒルダ。左側にステラ姫とサイモンが、それぞれ恐れおののいた瞳で俺を見ている。
「……あー。えーと」
 腰が抜けて、床にぺたんと尻餅をついているステラ姫。固まったまま動けないでいるサイモン。ガタガタと震えてヒルダに抱きついているドーラたんと、蒼白な顔で彼女を抱きしめているヒルダ。
しまった。薬が効きすぎたか。
どういうフォローをしようかと考える間も無く、次の瞬間、俺が踏み込んだ場所を基点に床が大きく抜け、崩れ落ちた。
「きゃあああああああああ!」
 女性三人の悲鳴が見事なユニゾンを奏でる。
「いかん!」
 俺は瞬時に状況を見極めた。
 サイモンがステラ姫を壁際に突き飛ばして、自らは亀裂に飲まれた。反対側を見ると、ドーラたんとヒルダが抱き合ったまま崩れる床の上でへたり込んでいる。
「間に合うか!」
 床を蹴り、二人の下へ走り寄る。
 崩落する寸前に、なんとか間合いを詰めた俺はサイモンに倣って二人を突き飛ばした。
 当然、そのまま崩落する床と共に、落ちる。
「うあああああああ!」
 そして、視界が暗転した。



「いてててて。とりあえず、二人は助けられたみたいだな。しかし」
 落下した瞬間に、残されたなけなしの魔力で防護結界を張った俺は大した怪我も無く着地する事ができた。だが、騎士であるサイモンにそんな芸当が出来たとも思えない。
「おい、サイモン。無事か?」
 瓦礫の山と化したその部屋に声を掛けた。日の光が入らぬその部屋は、一歩先も見えないほどの完全な闇に覆われていた。
「無事と言えば、取りあえずは無事ですが……出られません」
「うおっ!」
 足元の瓦礫の下から、蚊の鳴くような声がする。どうやら彼はこの下に埋まっている様だ。うまい事手近に落ちていた燭台の蝋燭に火を点けて、俺は瓦礫を退かしに掛かった。
 掘り進める事数分。巨大な瓦礫を持ち上げると、そこにサイモンが横たわっていた。
「大丈夫か、サイモン?」
「……ヘルムが無かったら、即死でした」
 苦しそうな声を出しながら、それでもサイモンは気丈に答えた。
 改めて彼の姿を見てみると、なるほどヘルムの頭頂部が大きく凹み、鎧のあちこちもひしゃげていた。それにしても頑丈な鎧だな。これどこに売ってるんだろう?
 まあ、そんな事はともかく。
 取りあえず、動けないでいるサイモンを抱え起こして、部屋の隅にあった寝台に運んだ。
「大丈夫か? 今、鎧を脱がせてやる」
 まずはその顔面を覆っているヘルムに手を掛ける。
「あっ、ちょ、まって」
「駄目だ、お前怪我してるだろう? 見せてみろ」
 何故か嫌がるサイモンを無視して、ヘルムを強引に外した。
 そこには。
「ああっ」
 恥ずかしそうに顔を赤らめる、ショートカットのボーイッシュなおにゃのこが納まっていた。
 蝋燭の灯に照らし出された、中性的な美しさを纏った彼女の素顔。それは、幼女にしか興味の無かった筈の俺が見ても、思わずドキっとしてしまう程の美貌である。
「サイモン……お前、女の子だったんだ……」
「いえ、あの、その……」
 先程、四天王と戦っていた雄姿がまるで幻だったかの様な仕草で、サイモンが更に恥ずかしがる。中世的な顔立ちにも関わらず、不思議な色っぽさがそこには存在した。
「ご、ごごごめんなさい。ボ、ボク、じじ実は極度の上がり症で、全身鎧を着ていないと人前に出られないんですっ」
 真っ赤になってあたふたと身振り手振りで話すサイモン。上がり症云々以前に色々と突っ込みたい事もあるのだが、取りあえず今はスルーしておく事にした。
「そうだったのか。しかし、怪我をしているのなら放っておけない。鎧を外すぞ」
 そう、強く言いつけると、サイモンは恥ずかしそうに目を伏せて、
「はい」
 と小さく答えた。
 俺はさすがにドキドキしながらも、サイモンの全身鎧を外していく。背中に触れた瞬間、彼女が「ぁふうっ!」と無駄にセクシーな悲鳴をあげた。
「背中を打ったのか。おい、ちょっとうつ伏せになれ」
「は……はい……」
 鎧の下に着ていた薄衣も脱がせる。どうやら、彼女は裸の背中から臀部にかけてかなり強打した様だ。
「くそ、暗くて良く見えないな……」
 燭台を手に持ち、患部を照らしてみる。傾けられた蝋燭から蝋が垂れて、サイモンの背中に落ちた。
「ぁあっ! 熱いです、勇者様」
「我慢しろ、すぐ終わるから」
「は、はいっ」
 背骨に沿って指でなぞる。どうやら、骨に異常は無い様だ。ただの打ち身だろう。
 そうこうしている内に、またしても蝋が垂れ落ちる。
「ああっ 勇者様、そんなにされたら、ボク……」
「大丈夫だ、すぐに良くなるから」
「わ、わかりました」
 背中は大丈夫みたいだな。よし、それじゃあ腰の方を……
 そう考えた俺がサイモンの腰に手を添えたのと、まばゆい魔法の光が発生して部屋が照らし出されたのは、まったくの同時刻だった。
「ペドロさま! サイモン! 無事です……か……」
「ペドロ! 大丈……ぶ……」
「ペドロさん! ご無事………で……」
 俺とサイモンの姿を見た三人が、瞬時にして固まる。
 見計らった様なタイミングで蝋が垂れて、サイモンが色っぽく
「ぁうんっ!」
 と零した。

 ☆

「い、いや、コレは、分かるよ、な? みんな?」
「…………」
「…………」
「…………」
 彼女達の視線が痛い。
 確かに、これは見様によっては『怪我した美形のおにゃのこをひん剥いて、蝋燭垂らして苛めたあげくに下着まで脱がしに掛かったド変態』に見えちゃったりするんだろうけれど。
 違う。違うんだ。
「お、おいサイモン。お前からも何か言ってやってくれ」
「あ、えと……勇者様は、優しかったです……」
「何だその紛らわしい言い方! しかも無駄に瞳とかうるうるさせて!」
 まるっきり恋に落ちた少女の瞳で呟かれたサイモンの一言。当然それは逆効果以外の何物でも無かった。
 再び、沈黙が訪れる。
 目の前に居る三人も、さすがにこれは引いただろう。
 ステラ姫などぷるぷると小さく震えながら、怒りをかみ殺している。
 嗚呼。さようなら、俺の名声。さようなら、俺の『勇者伝』
 俺は自分の理想としていた勇者物語が、今や跡形も無く崩れ去った事を実感していた。
『勇者ペドロは、幼女趣味だけに留まらず相当特殊な嗜好を持ち合わせたド変態だった』
 きっと、こう書かれるに違い無い。ははは、もう涙も出ねえや。

 ところが。

「ずるいです、ペドロさま」
「はい?」
 姫は声を荒げて、続けた。
「ずるいですペドロさま! いくらサイモンが魅力的だからって、私達が来るのを待たずに始めてしまうなんて!」
 怒りに震えたステラ姫の一言。しかし、そのベクトルは俺の予想の遥か斜め上にあった様だ。
 同じく怒り心頭らしい、ドーラたんが続く。
「せっかく、わらわ達が和解して『三人揃ってペドロのものになろう』と決めた矢先に、この仕打ち。あまりに残酷ではないか?」
「そうです! 楽しい事は皆で分かち合うべきです、ペドロさん!」
 ヒルダまでもが血相を変えて、俺に詰め寄る。
「え、えーと、あのー、そうじゃなくて、これは、その」
 岸に打ち上げられた魚の様に口をぱくぱくさせる事しか出来ない俺に、背後からサイモンが抱きついてきて、
「勇者様……ボク……」
 と、えらく熱っぽい口調で囁く。
「ちょ、おま、ばか、やめれ!」
「ペドロさま、わたくしも!」
「わらわも!」
「あんっ、私も!」
 残る三人までもが一斉に抱きついて来る。
 あまりにも有り得ない、むしろ有ってはいけない状況。しかし、これは紛れも無い現実である。
 魔族の長で、完璧幼女。人間界のプリンセスで、トンデモ美少女。魔族のメイドで、妖艶系美人巨乳お姉さん。超絶中性的美少女の、ボクっ娘騎士。こんな豪華な取り合わせは、いかなる王侯貴族も揃えられまい。はは、こりゃすげえや。

 俺の心の中で、再び何かが弾けた。

「よっしゃ! この際、全員まとめて面倒見てやる!」
 俺は四人を一斉に押し倒した。
 ドーラたんの汚れ無き唇を奪い。
 ステラ姫の下着を強引にひん剥いて。
 ヒルダの反則的な胸を揉みしだき。
 サイモンの引き締まった体を抱きしめる。
 ふはは。もう、どうにでもなれ。どこにも逃げ様が無いのなら、いっそ前に進んでしまおう。
 ここまで来たら、いっそ俺の勇者伝には『今回の勇者は、何でもありだった』なんて書かせてやるぜ!


 ――後に。
 俺は人間族と魔族の垣根を無くした上に、十八男二十一女を儲けた『偉大なる絶倫王』として歴史に名を残す事になるのだが、それはもう少し先の話である。



 了
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● COMMENT ●

うう、ありがとうございます

お忙しいところありがとうございます。

>  ついに、魔王の居城まで辿り付いた。

> 幾多の街を巡り。
> 魔物の跳梁する草原を駆け。
> 悪の巣窟と化した陰鬱な森を抜け。
> 瘴気漂う荒涼とした山を這い上がり。
> 途中、洞窟の奥に捕らわれた姫を助けてみたり、世界中に散らばる伝説の武器や防具を集めさせられたり、他人の家のタンスから勝手に薬草を持ち出したりしながら。
> それはもう、世界中をたらい回しにされた。世間では崇められている勇者なんて職業も、その実はお使い係みたいなものである。
> そんなこんなで辿り着いた、最後のダンジョン。

特に序盤のこの描写が大好きだったりします。
まるで詩を読んでるかのような気分でしたぜ。
初めの数文を読んだだけで、文章力の高さを思い知り愕然としました。
これがラ研の力かー、と。

戦闘シーンの描写など、やはりお上手ですな。
じっくり研究させていただきますー

そして公募への改稿、楽しみにしております。

ギャグですか?ここまでの展開、エロくないですよ・・・?
あとこの作品、美少女文庫よりは二次元ドリーム文庫むきですね。
美少女文庫は、触手は採用しないのでは?それに内容的にも。あと投稿するなら、一人称「俺」よりも名前にしたほうが無難だと思います。
生意気いって、すみません。

すみません、訂正します。
巽先生が、かつて美少女文庫に触手を持ち込んでいました。
申し訳ありません。

投稿の健闘、お祈りしてます。

まずはおかえり&企画お疲れ様でした~

かくいう自分はずいぶんと筆が遠のいておりますが、、、

残念ながらまだ御作を拝読させていただいておりませぬゆえ、また折を見て雑感なぞを。

 ̄ω ̄)ノ ほいじゃね

Re むっぽさま

どういたしましてー。
「アレ、もっかい読んでみたい」なんて言われるのはワナビにとってこの上なく嬉しい一言。おじさんがんばって載せちゃうぞー。
という訳で、過分なまでのお褒めの言葉、ありがとうございます。
これをどんだけえっちぃ話にリビルドできるかがキモになりますゆえ、一生懸命イケナイ妄想しながら書こうかと思っております。
むっぽさんも公募頑張ってください。


Re プロキオンさま

ご足労ありがとうございます。
まあ、これは『ライトノベル作法研究所』さんという投稿さいとに投下した普通のギャグ小説でありまして、コレをベースに色々えっちくしていこうっていう寸法です。
っていうか、小生最初にそう書いてるよね。このうっかりさんめ☆

そして、『美少女よりも二次元文庫向き』というアドバイス、ありがとうございます。
そういえば内容的にはあんまり美少女文庫っぽくないかな、と今にして思っております。
触手もあのレーベルでは見た事ないですからねえ。
ありがとうございました。


Re  へべさん

毎度ありがとうございます。
小生も実生活が(儲からないのに)中々忙しく、筆が進んでおりませぬ。
でも、ラノベ作家さんて兼業でやってる方が多いらしいですね。うむ、言い訳にはできませんなw
お互い頑張りましょう。
あ、企画の奴は本当にバカバカしいから、それ相応の覚悟でヒマな時にでも読んでくださいな。
ではねー。

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某県某市某所にてショットバーを営んでいる、お笑い系バーテンダーです。
主に「ライトノベル作法研究所」というサイトさまにお世話になっております。

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