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2019-01

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いさお駄作劇場(4)キャサリンは俺の嫁

えーと。
これは、ここに載せようか載せるまいか、散々悩んでいた作品なんですか……
先日、とある変態に
「あれはお前の最高傑作だろう。なぜ掲載せぬ!?」
と、おだてとも脅迫ともつかない事を言われたので、調子に乗って載せちゃいます。

 ――あらかじめ言っておきますが――
 本ッ当にバカバカしくて超ギリギリエロスな作品でありますゆえ、そういったのが苦手な人には、決してお奨めいたしません。苦笑しながらスルーしてください。


 あと、補足。
 この作品は、以前ラ研で行われた
人外恋愛企画
というクレイジーな企画に投稿したものです。
その時の主催さんが、通称「サタンエロス」こと、Sの人という方でして、本作ではいくつか彼の名前を使って小ネタを書いております。


 では、お暇でバカバカしい小説を読みたいというアレな方のみ、お読みくださいませw

 俺は、嫁を愛している。それはもう、心から愛している。
 たとえ、彼女が何も語る事無くとも。
 たとえ、彼女が動く事無くとも。
 たとえ――

 たとえ、毎晩空気を足してやらねばならぬとも。






『キャサリンは俺の嫁』

※本作は性的な表現が微妙に含まれております。登場人物も変態だけです。規約は順守しているつもりですが、お子様、変態や性表現を嫌悪する方、冗談の通じない方などはお読みにならない事をお勧めいたします。







「今日も素敵だったよ、キャサリン……」
 激しく愛を交わした余韻に浸りつつ、俺はキャサリンを抱き寄せた。火照った体に彼女のひんやりとした感触が心地良い。
 しかし、抱きしめてみると心持ち張りが無くなっていた。
「ごめんよ、今日も激しくやりすぎちゃったね」
 彼女のうなじに唇を寄せて、空気注入口から俺の熱い桃色吐息を注ぎ込む。世には手動ポンプやコンプレッサーで手早く済ます輩もいると聞くが、これは彼女に命を吹き込む神聖な儀式。器具の力を借りるなど、言語道断である。
 身体が張りを取り戻した事を確認し、俺は洗面器に張ったぬるま湯とタオルで彼女の体をやさしく拭った。出来れば一緒に風呂に入りたいのだが、残念な事にこの築四十年木造モルタル塗り六畳一間、風呂無しトイレ共同のボロアパートではそれも叶わない。銭湯に連れて行く事も一時は本気で考えたのだが、彼女の肢体を好奇の視線にさらすのは忍びないので、諦めた。
「よし、キレイになった」
 ぴかぴかに磨き上げた彼女を布団に横たえさせると、俺は部屋の約半数を占拠している本棚と、随所に積み上げられた古本の山脈を避けるように部屋を出て、銭湯に向かった。

 俺の名は、武男。
 自慰 武男(じい たけお)。仇名は小学五年生の時から『オナニー』だ。この苗字のお陰で俺はここ十年、常に校内の話題の中心として生きている。大学生となった今でも、それに変わりは無い。
 無論、言うまでも無い事だが、俺は自慰家の長男である事に誇りを持っている。自慰家は、今でこそ没落して一般庶民として暮らしているけれど、家系を紐解けば平安貴族まで辿れる、由緒正しい家柄なのである。
 その自慰家次期当主である俺に、人生の転機が訪れたのは去年の晩秋の頃だった。
 誕生日だと言うのに特に予定も無く、趣味の古本収集に出掛けようとしていた時、所属する文芸サークルの先輩である江須野 仁先輩に呼び止められた。
「自慰よ、前から思っていたのだが、貴様にはエロスが足りぬ。まあ、生まれてこの方彼女が居た事が無いらしいからそれも仕方が無いが、それに甘んじていてはいかん。聞けば今日は誕生日らしいな。良いものを進呈するので、これを機会に貴様もエロスに目覚めると良い。エロは良いぞ、エロは。では、さらばだ。エロース!」
 と言って渡された、菓子折り程の大きさの箱。
 家に帰り、包みを解いてみるとそこには、
『バルーン型ラブドール  キャサリン』
 と刻印された、何やら萌え萌え系のアニメ顔をしたえっちぃ女の子のイラスト。
 箱を開けて中味を見ると、きれいに折り畳まれた肌色のビニールボートの様な物体と、金髪ポニーテールのカツラ。 その他ローションだの何だのといったセルフバーニンググッズが入っていた。
 いわゆるダッチワイフというやつである。
――いくら彼女居ないからって、この仕打ちはあんまりじゃあないですか、先輩――
 その時、何も知らなかった俺は恩知らずにもそんな事を考えた。今思い出しても汗顔の至りである。
 ちなみにダッチワイフという言葉は、どうもオランダ人が本気で嫌がっているらしいので現在はラブドールと呼ばなければいけないらしい。そもそも、何でアレが『オランダ人妻』なのかは未だに謎なのだが。
 さておき。
 複雑な思いを胸に秘めつつも、結局好奇心に勝てずにそれを取り出してしまった俺。まずは空気を入れてみる事にした。
 吐息を送り続ける事十数分。耳の下が痛くなって来た頃、ついに彼女はそのつややかなダイナマイトバディを露わにした。明らかに通常の人間では考えられない、ぼん、きゅっ、ぼーんの素晴しいアニメ体型である。
 付属のカツラを装着して、完成。やはりアニメチックに大きな瞳と、丁度ズッキーニが一本入るか入らないか位の、O型の口元が妙に淫靡な雰囲気を醸し出している。

 とりあえず、使ってみた。

 ……そして、手放せなくなった。
 世の中に、こんな素晴しい事があったとは。
 愛を交わすという行為がどれだけ素敵な事かを知らなかった俺は、キャサリンの体の虜となった。うん、肌を合わせるという事は実に素晴しい。ラブ、イズ、タッチ。ジョン・レノンの言う通りだ。
 俺は、キャサリンを嫁として迎える事にした。
 元々、とある事情で三次元の女性に恐怖感を抱いていた俺にとって、彼女はある意味理想的だった。姦しく騒ぐ事無く、ヒステリックに暴れる事無く、不必要にべたべたと甘えて来る事無く、それでいていつも側に居てくれる。実に素晴しい嫁である。
 以来、八ヶ月――
 俺はキャサリンと深く愛し合って来た。朝起きたら、まずは愛し合い、夜、部屋に帰ったらすぐに愛を確かめ合い、寝る前にまた、もう一度全身全霊を込めて、彼女と愛を交わす。
 彼女は無論、動く事も、愛を語る事も、微笑む事も無かったが、そんな事は俺には些細な問題に過ぎなかった。
 彼女がそこに居てくれるだけで、俺は幸せなのである。

 近所の銭湯を使い、コンビニで煙草と発泡酒を買い、アパートに戻る。
「あれ? 電気、消したと思ったが……」
 部屋に戻ってみると、消した筈の部屋の電気が煌々と灯っていた。
 すわ、泥棒か?
 ……いやいや、こんなボロアパートに入るバカな泥棒も居るまい。消したつもりだったのだと自分に言い聞かせ、鍵を開ける。ほら、ちゃんと鍵閉まってたじゃないか。はは、この慌てんぼさんめ。
 そして扉を開き、靴を脱いで中に入ると、
「お帰りなさいませ。武男様」
 そこには、丁寧に三つ指を付く格好で頭を下げて、俺を迎え入れるキャサリンの姿があった。


「キ……キャサリン、なの、か?」
「はい、武男様。あなたの妻のキャサリンです」
 そう言って彼女は頭を上げ、俺を見上げる。彼女のO型の口が、微笑んだ様な気がした。
「えーと」
 人は、あまりにも想定外の事が起きると、かえって冷静になるものらしい。
「……とりあえず、話を聞こうか」
 俺はキャサリンを招じて部屋に入り、ちゃぶ台を挟んで腰を下ろした。早速買ってきた発泡酒の缶を開け、喉を湿らせる。いつの間にかカラカラに乾いていた喉に、炭酸の刺激が心地良い。
 目の前にちょこんと座っている彼女に、俺は改めて問いかけた。
「で、君は確かに、キャサリンなんだな?」
「はい」
 淀み無く答える。
「あー、俺の知ってるキャサリンは、なんて言うか、動いたり喋ったりは出来なかった筈だが?」
 変な所で冷静になってしまった俺は、一体彼女がどうやって喋っているのかが一番、気になっていた。
 彼女の口は、カナダ産松茸が一本、入るか入らないかくらいの長さと細さの空洞でしか無い筈。
 ――どこから発声してるんだろう?
 そんな、割とどうでも良い事を考えていた時、キャサリンが話し出した。
「私がこうやって動ける様になったのは、あなたがたくさん愛して下さったからです」
「……はい?」
「あなたに何度も愛されている内に、無機質である筈の私の中に、魂の様なものが生まれました。あなたが下さった深い愛情が、私を生み出したのです」

 ――人型が魂を持つ事は、珍しい事では無い。
 その所有者の深い愛情や、あるいは怨念が人型に魂を植え付ける事は世界中で確認されている。髪が伸び続ける日本の童女人形や、瞳を動かす西洋人形、涙を流す聖母の像などの話は誰もが聞いた事があると思うが、それらこそが、所有者や製作者が文字通り『魂を込めた』人型なのである――

 先日、古本屋で大量に衝動買いしたオカルト雑誌『ヌー』のバックナンバー。その中の一冊に、そんな記事が載っていたのを、俺は唐突に思い出した。
「いや、しかし、そんな事が……」
 俺の、毎日の行為がキャサリンに魂を吹き込んだなんて……確かに、毎回心を込めて、濃厚に彼女を愛して来た自信はあるが……
「心が生じてから、私はずっと神様に祈り続けました。『私の事を、いつも深く愛して下さる武男様に、ご恩をお返ししたい』と。すると、ある時、この界隈のエロスを司る神、サタンエロス様が現れて――」
「神なのにサタン!? そ、そそそれにお前、今回神様とか悪魔とか出しちゃダメだって規約に!」
「平気です、武男様。『神様って名乗っていたけど良く見たらヘラクレスオオカブトだった』とか言い通せば大丈夫みたいですから。こんなザルみたいな規約、何とでもなります」
「そ、そうなのか?」
 意外と腹黒いんだな、キャサリン。
「ええ。そして、サタンエロス様が私におっしゃったんです。『かの人間が、0721回お前を愛する事ができたら、お前の願いを叶えてやろう。エローーーーーーーース!』と。そして、先程愛して頂いたのが」
 0721回目、だった訳か。ところでこの表記大丈夫なんだろうか?
「そ、そうだったのか。しかしだな、そんな事で動けるようになるんだったら、町中ラブドールだらけになっちゃうんじゃないのか? 少なくとも、俺はそんなの見た事無いんだが」
「いいえ! 大抵の人は、途中で本物の彼女が出来たり、私達に飽きたり、自己嫌悪で自殺したりしますので、0721回もできません。こんなとんでもない回数を毎回濃厚に愛して頂いて、しかも終わった後も優しく洗って頂けて……キャサリンは世界一幸せなラブドールです」
「そ、そうなんだ」
 何故か心の一部が激しく痛んだものの、取りあえず状況は理解できた。
「納得も、し難いが……」
 まずは心を落ち着けようと、煙草を取り出し、咥えて火を点けたその時――
「ひっ!」
 キャサリンが、急に恐れおののいた仕草で後ずさり、壁にへばり付いてガタガタ震え出した。
「ど、どうしたんだ?」
「ひ、ひ、ひ……火、怖いんです……」
「火?」
「はい。私達の体は、衝撃にはとても強く出来ているんですが、火にはものすごく弱いんです」
 彼女は部屋の隅でガクガクブルブルと震えながら、泣きそうに呟いた。
 なるほど。確かに彼女の体は塩化ビニルだかポリエチレンだか、そんな感じの物質で形成されている。熱にはめっさ弱いのだろう。
「そうだったのか。ごめん、キャサリン。気が付かなかったよ」
 そう謝って、素早く灰皿でもみ消す。キャサリンは安堵した声色で歩み寄って来た。
「ありがとうございます。武男様は、本当にお優しいんですね」
 そして、改めて俺の前に正座すると、感極まった様な口調で、
「私、動ける様になったら、まずは武男様にご奉仕して差し上げたいと、ずっと思っていたんです」
 俺にすがりつく様に体を合わせてきた。
「ご奉仕、させてくださいね?」
「あ、う、うん」
 そのまま、俺をゆっくりと横たえさせると、キャサリンは丁寧にシャツのボタンを外し、瞬く間に俺の上半身をひん剥いた。
「ああ……武男様、素敵です……」
 熱っぽく囁きながら、俺の胸板や、乳首、腹筋、へそ等に、優しく愛撫する様にくちづける。
 そんな事をされている内に、俺の股間のテポドンは一気に臨戦態勢に。あとは将軍様の命令を待つだけの発射準備完了状態になっていた。
「ふふっ。武男様ったら、こんなに元気になっちゃって……苦しそうですね……今、楽にしてさしあげます……」
 ズボンの上からそれをまさぐりながら、淫靡な瞳でみつめるキャサリン。俺は緊張と羞恥と興奮と感動が混ざった不思議な感覚に弄ばれていた。
 ――『してもらう』って、こんなに凄かったんだ――
 彼女が俺のベルトに手を伸ばした。かちゃかちゃと金具を外す音すらも、いやらしく聞こえる。
「では、失礼いたします」
 いよいよ、ジッパーに手が届いた。
 これから起こる、今まで以上の快楽を想像して、さらに鼓動が早まった。
 そして、彼女が『ちーっ』とジッパーを下げた、まさにその瞬間――
「たけおきゅーん! ついに見つけたわよー!」
「うわあっ!」
 部屋のドアを凄まじい体当たりで『すぱあん!』と開け放ち、何者かが乱入してきた。
「そ、その発勁(はっけい)は、郁乃姉さん!?」 
「もお、こんな所に潜伏していたなんて! お姉ちゃん、探すのにものっそい苦労したんだ、から……」
 そこまで一気にまくし立てた所で、俺の上に乗っかっているキャサリンが視界に入ったらしい。
 郁乃姉さんの顔から、さーっと血の気が引くのが見えた。
「ね、姉さん……これは……」
 その刹那。
「なんて事してるのたけおきゅん!」
 叫ぶや否や、土足のまま疾風の如く部屋に飛び込み、その突進力を活かした華麗な飛び蹴りでキャサリンを蹴り飛ばした。スカートがまくれ上がり、フェティッシュなデザインのガーターとピンクのショーツが俺の視界を塞ぐ。
「きゃん!」
 壁に『ていん』と当たって悲鳴を上げるキャサリンをスルーして、そのまま俺の顔面にマウントポジションで圧し掛かった。
「いくら寂しかったからって、あんな空気人形で自分を慰めていたなんて! かわいそうなたけおきゅん……いいわ、今日から私があなたの性処理人形になってあげる! さあ、遠慮しないで私にあなたの熱いリビドーをぶちまけて!」
 俺の顔面に自らの股間をぐりぐりと擦りつけて、感極まった口調でそんな事を叫ぶ姉さん。
「ちょ、ねえさ、むぐ」
 ピンク色のやたらとセクシーなショーツが俺の鼻と口を完璧にガードし、さらに彼女の両ふとももが頚動脈をも圧迫していた。
「いき……くるし……放し……て……」
「んあっ……たけおきゅん……」
 姉さんは自分の発した台詞に酔いしれて、体を小刻みにひくひくと震わせながら悦にイっている。
 両腿が、さらにぎゅうっと締め付けてきた。
「うきゅ」
 脳に酸素の供給がストップしたからか、頭がぼーっとして来た。
 ――ああ、俺、このまま死んじゃうんだ――
 最後に見た光景が姉のぱんつ、というのは人生の幕引きとして、どうなんだろう?
 そんな事を考えながら、意識を閉じようとした時。
「何て事するんですかあっ!」
「きゃあっ!」
 お花畑の向こうで、死んだ筈のおばあちゃんが手招きしているのが見えたのも束の間、キャサリンの放ったフライングクロスチョップで姉さんが薙ぎ倒され、俺はどうにか一命を取り止めた。
 

「……姉さん、一体どういうつもりだ?」
 今度は三人でちゃぶ台を囲む。
「そもそも、どうしてここが分かったの?」
 俺は、突如現れたと思いきや、有ろう事かキャサリンを足蹴にし、あまつさえ俺の命すらも奪おうとした姉、自慰 郁乃(じい いくの)を、静かな怒りを胸に秘めつつ詰問していた。
 ところが。
「あなた、ウチのたけおきゅんとは一体どんな関係なの? 私の大事な大事なたけおきゅんをたぶらかして。何なの? 死ぬの?」
「私は武男様の妻です。あなたこそ、いくら武男様のお姉様とはいえ、いきなり土足で上がりこんで来て、私達の睦み事を無粋に邪魔するなんて、非常識ではありませんか?」
「妻だか何だか知らないけどね、私はね、たけおきゅんが生まれた時から二十年、ひたすら愛し続けて来たの。あなたみたいな、ぽっと出のダッチワイフとは年季が違うの!」
「私だって、毎日何回も武男さんの三十八口径で愛して頂いています! 年季はともかく、頂いた愛情の深さは誰にも負けません!」
 二人は俺の事など全く無視して、まるで浮気現場に乗り込んだ本妻と、開き直った愛人の様に激しい痴話喧嘩を展開していた。
「お前ら人の話を聞け! て言うか何だよ三十八口径って微妙な比喩は!」
 ちゃぶ台を思い切り引っ叩き、俺は二人の言い争いを強引に止めた。
「だって、この空気人形がたけおきゅんの事!」
「すみません。じゃあ四十五口径にします!」
「姉さん、この際ちゃんと言っておくけど、キャサリンは俺の嫁だ。酷い事言わないでもらおう。それとキャサリン、口径の大きさはどうでも良いんだ。……それより姉さん。一体どうしてここが分かったんだ?」
 尚も睨み合う二人を仲裁しながら、改めて姉さんを問い詰めた。
 ――俺を女性恐怖症に陥れた張本人である、郁乃姉さん。
 俺より四つ年上のこの人は、幼少の頃よりなぜか俺を溺愛し、古くは幼稚園に入る前から高校を卒業するまで、俺とちょっとでも親しく振舞った女の子を、得意の心意六合拳で全て血祭りに上げてきた。
 そういえば、今にして思えば俺の担任は全て男性教師だったのも、もしかしたら、いや、絶対に彼女の仕業なのだろう。
 お陰で、彼女を作るどころか女性と接する事すらままならなかった俺は、いつしか重度の女性恐怖症になっていた。
『このままでは、俺の人生ダメになる』
 そう考えた俺は、家族の反対を振り切って、故郷を遠く離れた都内の大学に進学した。
 以来、両親にも住所を教えず、仕送りすらも断って細々とバイトで食いつないで来た。全てはこの変態から離れたいが為である。
 なのに、一体どうして……
「ふふふ。さすがは私のたけおきゅん、二年前の姿の消し方は見事だったわ。でもね、あなたは一つ、ミスをした。一回だけ、家にここから電話を掛けたでしょう?」
「確かに、今年の春に一度だけ、母さんに電話を……まさか!」
「そう。盗聴させてもらったわ。それから興信所やら何やらを色々と使って。これも全てたけおきゅんに会いたいが為……なのに!」
 そこまで話して突然、キャサリンを『びしぃっ』と指差し、
「このズベタは一体何!? 私の愛は受け入れてくれなかったのに!」
「俺達姉弟だろうが」
「エロゲーやエロマンガじゃあ、お姉ちゃんも妹もみんなバコバコとヤられまくってるじゃない!」
「そんなもんと一緒にするな! ていうか姉さん、あんたキャサリンを見て何とも思わないのか?」
 余りにも唐突な姉さんの乱入で忘れかけていたが、そもそもキャサリンが動いている、という時点で既に色々とおかしい。
 その点、姉さんは一体どう思っているんだろう? 普通なら、彼女はもっと驚くべきなんだが。
「何とも思わない訳、無いでしょ! 私のたけおきゅんに手を出した薄汚いドロボウ猫!」
「や、そうじゃなくて。ラブドールが動いてるんだよ? 普通、驚くだろ?」
「そんな事はどうでも良いの。ダッチワイフだろうがニャル子さんだろうが有川夕菜だろうが、私のたけおきゅんにちょっかい出す奴は、みんな敵よ。死なす!」
 血走った瞳でキャサリンを睨みつけ、立ち上がる姉さん。
 ……そうだ。忘れてた。この変態に『普通』なんて言葉は通用しないんだ。
「私も……」
「キャサリン?」
「私は、武男様にお仕えするためにのみ、存在しています。それを邪魔する人は、すべて敵です。たとえ、それが武男様のお姉様であっても」
 ああ、何て事だ。今度はキャサリンが静かな怒りを身に纏わせつつ、立ち上がって姉さんを睨み返しているではないか。
「ふうん、良い度胸ね。でも、威勢が良いだけでは、私には勝てないわよ?」
「お口を動かす前に、手を動かしたらいかがですか? お姉様。私の口は武男様にご奉仕する為にしか、動かしたくないのです」
 二人の視線が交錯し、火花を散らす。まさに一触即発の空気。
「待て待て待て。こんな所で暴れたら、どうなると思う君達」
 慌てて二人の間に割って入り、二人に状況を認識させる。
 先記した通り、六畳一間のこの部屋は、その面積の半数を古本の詰まった本棚と、入り切らないで積み上げられた古雑誌で占拠されている。すでに先程のファイトで積まれていた雑誌が随所で崩れて足の踏み場も無くなっているのに、これ以上暴れられて本棚を倒されでもしたら、雪崩ならぬ本崩で全員生き埋めになりかねない。
「だから君達、ここは一つ穏便に」
 これじゃあ、何だか本当に浮気した夫みたいじゃないか。
 そんな事を考えながら二人をなだめていたら、
「そもそもたけおきゅん。あなたは私とダッチワイフ、どっちが大事なの?」
「そうです。この際、はっきり答えて差し上げて下さい。武男様」
 ……あれ? 何で、俺に矛先が?
「お姉ちゃん、たけおきゅんの為だったら、何でもしてあげるわ」
 言うや否や、姉さんは瞬時に着ていた服を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿で俺に抱きついて来た。
「うわっ!?」
「たけおきゅんが、私の事を嫌いでも構わない。一緒に居られるのなら恋人じゃなくてもいいの。あなたの性処理人形でいいの。側にさえ、居させてくれるなら!」
「ね、姉さん……」
 不覚にも、どきっとしてしまった。
 確かに姉さんはどうしようもない変態だけど、俺の事を真剣に愛してくれている事がひしひしと伝わって来た。もしもこれが血の繋がっていない女性だったら、一も二も無く、俺は墜ちているだろう。しかもこの人、見た目ははっきり言って美人だし、心意六合拳で鍛え上げたプロポーションも素晴しいし。
 それに……
 えーと、当たってるんですよ。その、やわらかくてあったかい色んなモノが。
 以前は大して気にならなかったけれど、今の俺はキャサリンと散々交わした睦事で、女性の体の素晴しさを知ってしまっている。
 相手が実の姉にも関わらず、無駄に正直な俺の体は、しっかりと反応していた。
「ふふっ。たけおきゅん、大きくなったよ……お腹に当たってる」
 うっとりとした表情でそんな事を言いながら、姉さんがお腹をぐにぐにとこすり付ける。
「うあ! ね、姉さん、それ、やめ……」
 はい。そうです。困った事に、俺のH2Bロケットは既に打ち上げ準備を完了しており、もはやJAXAからの発射命令を待つばかりとなっているのです。
「むっ! 武男様!」
「うわあっ!」
 今度は背後から、キャサリンがすがりついてきた。
 元々彼女は全裸なのだが、そのひんやりとしつつも弾力の心地良い胸が、俺の背中をふにふにと揉みしだく。
「私はただの人形ですが、この魂は武男様にご奉仕する為に生まれました。貴方が望むなら何でもします。人間以上の、完璧な妻になってみせます」
 俺の耳元で、切なくも熱っぽい口調でそう呟くキャサリン。その真摯な姿と言葉に、やはり心を揺さぶられる。
「さあ、たけおきゅん。どっちを選ぶの?」
「はっきりとお答え下さい、武男様」
 後ろからキャサリン。前から姉さん。二人とも、そう問い詰めながら俺に一平方ミリでも多く密着しようと、まるで俺と一体化しようとするかの如く、激しく体を纏わりつかせる。
「ほら。このおっぱいも、たけおきゅんの好きにしていいのよ……」
「むぎゅ」
 姉さんが俺の頭を抱いて、豊満なその胸に埋める様に、抱きしめた。
「むう……むぐぐ」
 い、息が……息が……
「あ! お姉様、ずるいです!」
 すると今度はキャサリンが、そうはさせじと俺の首に手を掛け、引き剥がそうとする。
「ぐえ」
 酸素が! 脳に酸素が!
 またしても気道を塞がれた上に頚動脈をも閉められた俺は、成す術も無く妙にあたたかな暗黒世界へと引きずり込まれていく。
 あ、なんか、気持ちよくなってきた……くらくらする……
 くらくら……ぐらぐら……
 って、あれ? 何だか本当に揺れてないか?
 薄れ逝く意識の中でそんな事を考えていた時、建物全体が、ぎしぎしと嫌な音を立てながら、激しく揺れ始めた。
「きゃっ! 地震!?」
 急な地震に慌てて、姉さんが俺を解放した瞬間、激しい揺れに耐えかねた本棚が、まるで雪崩を打つ様に、一斉に崩れ落ちてきた。
「うああああああっ!?」
「きゃああああああ!」
「危ない!」
 視界が暗転した。

 
「……大丈夫ですか? 武男様。ついでにお姉様」
「う、うん。とりあえず、生きてるみたいだ」
「わ、私も」
 暗闇の中で、キャサリンの問い掛けに答えて、冷静に状況を確認してみる。
 まだ闇に目が慣れていないので良くわからないが、こうやって無事でいられる事から察するに、建物が崩れる程大きな地震ではなかったらしい。しかし、そこいら中に散乱している古本や古雑誌を見ると、部屋の四方に配置した本棚が一斉に倒れこんで来たのは、間違い無いだろう。
 俺の体の下に、やわらかくてあったかい体。俺は、姉さんを庇う様に押し倒していた。
「姉さん、大丈夫? 痛くない?」
「うん……平気。この重みも、痛みすらも幸せ。私たち、一つになったんだね……」
「言ってる場合か! とりあえずは平気そうだな。キャサリンは大丈夫か?」
「は……はい……」
「?」
 背後から聞こえる、妙に苦しそうな声が気になり、体を起こして振り向こうとした。
 しかし上体を起こす程の隙間も無く、ほんの少し頭を上げただけで『ぽよん』とキャサリンの体に当たる。
「いったいどうなって……」
 無理繰り体を捻じ曲げて、やっと闇に慣れてきた目で上を見てみると、キャサリンが、俺たちを庇う様に、倒れこんで来た本棚をその背中で支えていた。
「大丈夫か、キャサリン!」
「ええ、平気です。ですが」
 キャサリンが、困ったような声色で言った。
「動けそうに、ありません」
 彼女の背中の上には、幾重にも本棚が圧し掛かっている。少しでも動いたら、全部崩れてしまいそうだった。
「待ってろ、キャサリン。すぐに助けてやる」
 そう男らしく答えて下から這い出ようとしたものの、崩れてきた大量の本に埋もれていた俺達は、体を動かす事もままならない。
「ええい!」
 左手で体を支えながら、辛うじて自由に使える右手で周囲の本をずらし、脱出路を確保しようとしていたその時。
「……ねえ、たけおきゅん。何か……きな臭い匂い、しない?」
「まさか!」
 部屋の外から、何かが焦げる嫌な匂いと、煙が流れ込んできた。
「火事か!?」
 他の住人の不始末か。電気回線のショートなのか。どこからか発生した火は、瞬く間にこの古い木造アパートを包み始めた。
 玄関の隙間から、煙と炎が侵入する。
「いかん! 早くしないと、こんな古本だらけの部屋、あっという間に火の海になるぞ!」
 慌てて手を動かし体を出そうとするが、慌てているからだろうか、作業は遅々として進まない。伏せているので煙を吸い込まないで済んだのが、せめてもの救いだった。
「武男様、お姉様、良く聞いて下さい」
 こんな時にも関わらず、冷静な声でキャサリンが語り掛けてきた。良く聞けば、その声は微かに震えていたが、それでも彼女は気丈に話し出した。
「これから私の体の空気を半分ほど、抜きます。一瞬だけ隙間が出来ますから、すぐに脱出して下さい」
「そ、そんなことしたら、キャサリンが!」
「ええ、今度こそ本棚の下敷きでしょう。でも、そうしないとここで三人とも死んでしまいます。さあ、お早く」
「だめだ! お前を置いていくなんて、できない!」
 しかしキャサリンは、まるで我侭な子供を諭す様な口調で、俺に言った。
「だめです、武男様。お聞き分け下さい。これしか方法が無いんです……それに、もしも私を連れて脱出したら、どうなりますか? 全裸の姉とラブドールを抱えて火事場から出てきた武男様。完全に変態の烙印を押されて、社会復帰できなくなりますよ? 私は、あなたにそんな人生を送ってほしくは無いのです」
「そんなの構わない! 一緒に逃げるぞ、キャサリン。絶対、何か方法が有る筈だ!」
 それでもキャサリンは、俺の言葉を聞こうとはしなかった。
「武男様……あなたにお会いできて、キャサリンは本当に幸せでした。そして、こうしてあなたのお役に立つ事ができて、心から嬉しく思います。お姉様、準備はよろしいですね?」
「……ええ、いつでも。ありがとう、キャサリン。あなた、今までたけおきゅんにちょっかい出して来た女の中じゃあ、一番骨があったわよ」
「ふふ、ありがとうございます、お姉様。では、武男様をお願いしますね」
「やめろ。キャサリン。やめろ――」
 しかし、俺の言う事も聞かず、彼女は自分の空気弁を開いた。
 空気の抜ける小さな音が聞こえて、一瞬だけ周囲に隙間が出来る。
「行くわよ、たけおきゅん!」
 その瞬間、姉さんが、火事場の馬鹿力という言葉通りにもの凄い勢いで立ち上がり、俺の襟首を掴んで引きずり出した。
 そのまま窓を開け放ち、外に脱出する。
 背後を振り向くと、部屋は既に炎に包まれていた。
「キャサリン! 今行くからな!」
 助けに行こうとした俺を、姉さんが後ろから羽交い絞めにした。
「おい! 姉さん放せよ! キャサリンを助けにいくんだよ!」
「無理よ。もう助からない……」
 涙声で、姉さんが呟く。その直後、部屋の中で折り重なっていた本棚が一斉に崩れた。
「!? キャサリーーーン!」
 
 次の瞬間、炎の中で『ぱしゅん』と風船が破裂する様な音が聞こえた。



 エピローグ

「ふう……一息つくか」
 誰も居ない深夜の事務所内で、俺は書き上げた原稿の校正を止め、椅子に寄りかかって大きく伸びをした。バネのへたった椅子がぎしぎしと不快な音を立てて俺に抗議する。
 それを無視してさらに体を大きく伸ばし、首の付け根から『ぴちっ』と音が聞こえた瞬間、唐突に忘れていた語彙を思い出した俺は、あっさりと前言を撤回してモニターに視線を戻し、推敲作業を再開した。
 今、書いている原稿は『ラブドールの普及率と性犯罪率の推移について』である。
 ――あれから十年。
 大学を卒業した俺は、キャサリンを製造したメーカーを探し出し、頼み込んで就職させてもらった。今は一流のラブドール職人になるために日夜修行をする傍ら全国を廻って講演し、ラブドールの普及、啓蒙活動に勤しんでいる。
 もう、俺のような目に遭う人を出さない為に。
 誰もが、堂々とラブドールを連れて外を歩ける。そんな時代を作る為に。
「……そして、そんな時代が来た時、また彼女に逢える」
 俺は、さしたる根拠はないが、そう確信していた。
 ふと、壁に視線をそらす。
 事務所の隅に置いてある、見本の陳列ケース。その片隅にキャサリンと同型のラブドールが飾ってあった。最近主流のシリコン製や抱き枕型に押されて人気の無いバルーン型だが、俺の我侭で飾ってもらってあるのだ。
「そうだよな? キャサリン」
 物言わぬ彼女に、語りかける。

 彼女のO型の口が、微笑んだ様な気がした。



 了
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あの伝説の……

全裸研が泣いた感動大作・キャサリンをこのタイミングで!
……うん、あくあ。は好きだなw

(あ、リンクありがとん☆ 敬称は……見つかったか。チッw)

あえて、このタイミングで

載せてみました。
べ、別に小生にR12指定とか枷をハメた某お姉様に対する無言の抗議とかじゃあ、無いんだからねっ!
まあ、それはともかく。
本作を「好き」と言って頂き、心から嬉しく思います。
企画当時、よくもまあ削除されなかったもんだと、今でも不思議に感じておりますw

追 敬称、見逃さないぜ ニヤリ

企画成功おめでとう!

どうやら最近更新がとまってるみたいですが、ほかに連絡手段も知らないのでとりあえずw

2010GW企画主催、本当にご苦労様でした。
そして企画のご成功おめでとうございます!
にわかにきな臭くなった異例の事態にもめげず本当によくがんばりましたね。
あなただからこそ、そしてあの運営陣だからこそ乗り切れたのだと思います。
少なからず交友を持たせていただいてることを誇りに思いました。

そして自分勝手な行動で、企画に小さな傷をつけてしまったことを謝罪させてください。
ほんとに申し訳ございませんでした。
しかし心から楽しい企画でしたよ。ありがとう。
まだまだ残務整理はあるかと思いますが、ひとまずお疲れ様といわせてください。
へべれけでした。

へべれけさま

コメントありがとうございます!
貴兄のお言葉、とても嬉しく思います。
実を申しますと、失礼ながら小生は貴兄の作品を読んでおりません。
ですので、「小さな傷」云々についてはコメントしかねます。
が、
今まで貴兄がラ研や企画に対し、真摯に臨んでいた事は良く覚えております。
もしも何か問題があったとしても、それはきっと些細な勘違いや行き違いの類であると、小生は感じております。

企画を「楽しかった」と言っていただき、誠にありがたく思います。
勿論、企画の成功は小生の手柄などでは無く、何から何までやって頂いた運営の皆様や、何よりもご参加頂いたへべさま始めとする皆様のおかげであります。
むしろ、こちらこそ「ありがとうございます」と言わせて頂きたく思います。
これからも、何卒お付き合いの程、よろしくお願い致します。

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某県某市某所にてショットバーを営んでいる、お笑い系バーテンダーです。
主に「ライトノベル作法研究所」というサイトさまにお世話になっております。

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