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2019-01

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いさお駄作劇場(3) オニオンハート

小生の、記念すべき料理小説第一弾です。
せっかくの本業を活かして「料理ライトノベル」なるものを確立しようと足掻いておりますが、その礎となったのが本作であります。
ずいぶん前に書いた作品ゆえ、いまにして思うとアラばかりが目立ちますが、個人的にものすごーく思い入れのある話なのですw



「ばかぁ!」
 実にシンプルかつ効果的な捨て台詞を残して、陽子は部屋を出て行った。
 俺は勢い良く閉められた扉に向かって「勝手にしろ!」と言葉を投げた。

 ……またやってしまった。
 一緒に暮らし始めてから三ヶ月。生活スタイルの相違からなのか、同棲開始時の情熱が徐々に薄れてきたからなのか、近頃やたらと喧嘩が多い。
原因は、どれも思い出せない位どうでも良い事だった。ゲームのデータを間違えて消されたとか、冷蔵庫のヨーグルトを黙って食べちゃったとか、何で俺の携帯勝手にチェックしてんだよとか、この着歴の女誰よとか、えとせとら、えとせとら。
今まで何度も繰り返して来た、この先何度も起こるであろう、傍から見たら犬も食わない類のささいな喧嘩。まあ、やってしまったものは、しょうがない。過去を悔やむよりも未来を見つめよう。
さしあたって、問題は二つ。
 一つは、怒って出て行った陽子をどうするか。もう一つは、このささくれ立った俺の心をどう静めるか、である。
 回答。
 一つ目。陽子の事は放っておく。行き先などは大体見当が付いているけれど、今追いかけて話し合っても先刻と同じ様な罵り合いにしかなるまい。今はお互い冷静になるべきだ。
 そこで二つ目。俺も頭を冷やさなければいけない。
直情的に動く陽子と違い、俺は自分の心をとことん掘り下げて解決法を探す事を好む。怒りにまかせて暴力的な衝動にかられる事も無い訳では無いが、さすがにそれを実行するほどハッピーな歳でも無い。極力感情的に振舞わず、自分の心を上手に操って平静な心境に軟着陸させる。人は、そういった術を手に入れて、初めて大人と呼べるのではなかろうか。
 自分がちゃんとした大人になれているかは微妙だけれど、とりあえず、こんな時の為の、とっておきの儀式が俺にはあった。
 台所へ向かう。
 ストッカーの二段目からタマネギを四つ程取り出す。三段目に鎮座しているジャガイモには、心のなかで優しく「お前は、あ と で」と声をかけておく。
 包丁をしっかりと研ぐ。
 陽光に鋭く輝く、文字通り研ぎ澄まされた刃を見るにつけ、心も晴れて行く気がするが、本番はこれから。
まずはタマネギをまっ二つにぶった斬り、皮を剥く。そして怒りに身を任せ裂帛の気合いと共に素早く薄切りにする。この時「あたたたたたた」等、それっぽい雄叫びを上げながら行うとさらに効果的なのだが、壁の薄いアパートでは近所迷惑になり得るのであまりお勧めできない。
 ふと、熱い涙が瞼を濡らす。雫が頬をつたう。タマネギが新鮮な証拠だ。
 泣きながらタマネギを切る。
涙は心を浄化するらしいけど、タマネギ涙にもそれを期待して良いのだろうか?
 そういえば、陽子はすぐに泣く。『涙腺が弱い』なんて形容では言い表せない位、すぐに泣く。
どんなにつまらないドラマでも、ちょっと悲しいシーンになると必ずと言って良い程うるうるしているし、アニメの最終回なんかは九割以上の確率で泣く。難病モノのドキュメントなんかは絶対見せられない。そういえば以前、試しに『フランダースの犬』を見せた時なんか凄い事になっていたな。
まあ、あれを見て泣かない奴は人間じゃ無いが。
 タマネギを切り終わったら涙を拭いて、フライパンにバターを落とし、火にかける。俺はタマネギを炒める時にバターかオリーブオイルを使わない奴には生きる資格が無いと思う。 
バターが溶けて、ふつふつと泡が立ってきたらタマネギを投入。中玉四つ分のタマネギは思いの他かさばり、30センチの大口径フライパンにすら、こんもりと小高い山を作る。  
その姿は「やれるのか? お前にこの俺がやれるのか?」と言わんばかりの雄々しさだが、ふふふ所詮は薄切りのタマネギよ。図体ばかりで中身が無い。木ベラでこねくりまわし、中火で三分も炒める頃には先程の威勢は何処へやら。力無くしな垂れて薄黄色いバターに絡まれた様は憐れみすら感じるが、この程度で許してやる程俺も優しく無い。
これからとろ火でじりじりと苛め抜いてやるのだ。
 バターの甘い香りと、タマネギの爽やかな香気が鼻腔をくすぐる。
 さて、こいつをこれからどうしてくれようか。
今ならまだクリームシチューやグラタンにも方向転換できるけれども、やはりそれでは面白くない。もっとこう、じっくりと炒めなければ。王道はやはりカレーかビーフシチューだろうな。視点を変えてビーフストロガノフってのも捨てがたい。奇をてらうならアンチョビを利かせてヴェネト風のパスタソース、というのもひねりがあって面白い。そういやヴェネトって何だろう? 創った人の名前だろうか?
徐々に心が軽くなって行くのを、俺は自覚していた。

 木ベラを動かしつつ考える。
単純な作業を繰り返していると、機械的に動いている体とはうらはらに、心は思案の空を自由に羽ばたいて往く。
今頃、陽子は何をしているんだろう? 
彼女も俺と同じ様に、何らかの方法で自分を鎮めている事は間違いあるまい。
「精神を集中して心を落ち着かせる」とか言いながらパチスロやってるとか、まんが喫茶で古い少女漫画を読み漁ってうるうるしてるとか、ファミレスの片隅で友達に物凄いスピードでメール打ってるとか……まあ、行動がシンプルなので割と簡単に想像が付く。もっとも、陽子の方もきっと「奴は部屋でねちねちとタマネギでも炒めているに違いない」とか思ってるんだろうけど。
 元々どうでも良い様なつまらない喧嘩だし、俺も陽子もいい加減子供では無い。お互い少しだけ冷静になって、少しだけ歩み寄れば、何事も無かったかの様に元の鞘に納まる。そう、いつも通りの下らない、犬も食わない類のちんまい喧嘩。
 ……でも、やはり時々不安になる。
 なんとなく勢いだけで同棲しちゃったものの、今まで違う環境で育って来た者同士が一緒に住む、というのはやはり難しい。同じ部屋に住んでいる筈なのに、いや、同じ部屋に住んでいるからこそ起こるすれ違いと勘違いの数々。平日はお互い時間が合わず、寝顔しか見れない日が続く事も珍しくないのに、二人で居られるはずの休日も些細な事ですぐに喧嘩ばかり。そろそろ結婚も視野に入れなければいけない年齢なのに、二人してこの体たらく。
これで良いのか? 俺達。
それとも、こんな事はどこの家庭でも日常茶飯事で、ちょっと喧嘩しただけでぐだぐだと考え込む俺に問題があるのだろうか?
ああ、思案は尽きない。
薄茶色に変色しつつあるタマネギをかき混ぜながら、俺はさらに心を妄想の空へと解き放つ。
ふと、なんだか、もの凄く深い事を考えてしまった。
自分が生きるために、食べるために、他の生き物の命を奪う。切り刻む。火で炙る。考えてみれば料理とはずいぶんと壮絶かつ残酷な行為だ。そして、その残虐行為に心の平静を見出す俺。
 これは一体どうなんだろう?
「料理をすると心が安らかになれるョ」なんて奇麗事をほざきつつ、心の中ではタマネギに陽子を重ねて、酷い仕打ちを加えて喜んでいるだけなんじゃなかろうか? 幼稚な破壊衝動を「料理」という偽善的な行為に包んで、自分をごまかしているだけなのではあるまいか?
 ……陽子はこんな事考えるのかな? 
あいつの事だから、より直情的にパチスロのボタンを俺に見立てて「くぬやろ! くぬやろ!」とか言いながら引っ叩いてたりするんだろうか?
聞いてみたいな。でも本当にその通りだったらマジで凹むだろうな。
云々。
無軌道に飛び回る心と対照的に、我が両手は黙々と作業を続けている。
 「の」の字を書くように、時に∞やΩを書くように木ベラをせわしなく動かしながらタマネギを炒め続けていると、時折自分の心の奥底を垣間見る様な、不思議な心境に陥る。
 この感覚は一体何だろう? 禅僧がひたすらに座禅を組み続ける様な、あるいは登山家が遥かな頂を夢に見ながら登り続ける様な、いわゆる「無の境地」に到達しようとしているのだろうか?
 ううむ、でもなんか違うな。
 無心を気取って手を動かしつつも、頭の中ではこうやって相変わらずバカな事ばっかり考え続けているし。大体、タマネギを炒めた位で悟りが開けたら誰も禅僧になんかならないだろうし、そんな悟り方は俺としてもごめん被る。
新興宗教タマネギ教。尊師は俺。経典は「きょうの料理」
……嫌だ。嫌すぎる。
 でも待てよ? たしか、お釈迦様は空腹に耐えかねてミルクを飲んだ時に悟りを開いたんじゃなかったっけ。ミルク飲んで悟りが開けるんなら、タマネギ炒めにそれなりの期待を抱いても良いのかな? 
そういえば、お釈迦様にミルクをあげた人の名前はたしかスジャータ。ああ、あのコーヒーの必需品を作っている会社は、そんな大上段に構えた名前を付けていたのか。すげぇなスジャータ。
 ん? お釈迦様にはスジャータが居た。じゃあ、俺には……
 陽子か? 陽子しか居ないのか?
 あの小うるさくて、やきもち焼きで、俺より一つ年上なのにガキみたいで、本業よりもパチスロの方が稼ぎが良くて、わがままで、すぐ泣いて、ちっちゃくて、貧乳で、寸胴で、それで、それで…… 

ええと、それで、可愛くて。
 

フライパンに意識を戻す。
今や、タマネギは褐色の見事なペーストへと、その姿を変えていた。
俺がタマネギを炒めながら心の深淵を垣間見た様に、タマネギもまた、元のつややかな姿では決して辿り着けないステージに到達していた。
どんな料理に加えても決して声高に主張する事無く、それでいて、そこに居る事を誰もが無視する事の出来ない独自の存在。まるでジャズクインテットの中におけるウッドベースの様な、恐るべき使い手に成長していた。
 これだけのタマネギ、一体どう料理してくれようか?
 もはや、ありきたりの料理では満足出来なかった。
 せっかくここまで育てたタマネギだ。この子が、その持てる力を最大限に発揮出来るものにしてやりたい。
 一体、どうするべきか……
 考えあぐねていたその時、狙い澄ました様なメールの着信音。
陽子からだった。
『パチスロで二万勝った。みやげは特上のお鮨だ。喜べ、坊主。余はオニオングラタンスープを所望』
「あはは……」
 文面を見て安堵している自分が可笑しくもあり、少し悔しくもある。
 やっぱりパチスロか、思った通りだ。そして俺の事もお見通しか。それにしても二時間弱で二万とは。相変わらず凄ぇな。
取り敢えず、
『わぁい。おねえちゃんありがとぉ。気をつけてね、お鮨』
と返信しておく。
なるほど、オニオングラタンスープですか。それは気付かなかった。素晴しい。
 そういえば陽子は昨日、「まだ風邪が抜けきれてない」とか言ってたな。がっつりニンニクを効かせてやろう。鮨との取り合わせはちょっと微妙だけど、まあ良しとしようか。

 俺は小鍋を引っ張り出して、今度はニンニクを炒め始めた。



   了
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Author:いさおMk2
某県某市某所にてショットバーを営んでいる、お笑い系バーテンダーです。
主に「ライトノベル作法研究所」というサイトさまにお世話になっております。

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